研究課題/領域番号 |
19K15582
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村田 慧 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (80755835)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光触媒反応 / 金属ラジカル / ハロゲン化 / パラジウム錯体 / 可視光 |
研究実績の概要 |
π共役系配位子を有するHalf-lantern型d8-d8二核錯体は、光励起に伴い二つの金属中心から配位子への電荷遷移に当たるMMLCT(Metal-Metal-to-Ligand Charge-Transfer)を起こし、金属ラジカル性を発現することが知られている。例えば、Half-lantern型Pt(II)二核錯体は、光励起状態においてハロゲン化炭化水素からハロゲン原子を引き抜いて化学量論的にPt(III)種を与える。しかし、光化学的に発生させた金属ラジカル種による原子引き抜き過程が、触媒的有機分子変換反応に展開された例は極めて限られている。そこで本研究では、これを素過程として含む可視光駆動型C-H官能基化反応の開発を目指した。 本年度は、Half-Lantern型二核Pd(II)錯体の光化学特性および光反応性と、同錯体を用いるアレーン基質の光触媒的C-H塩素化反応の開発に取り組んだ。先ず、シクロメタル化配位子を有するHalf-Lantern型Pd(II)二核錯体を合成し、その紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、可視領域に1MMLCTに帰属される幅広な吸収帯が観測された。次に、量子化学計算によりその電子状態を調べたところ、最低励起三重項状態においてスピン密度が金属上に局在化し、金属ラジカル性を示すことが示唆された。そこで、1MMLCT吸収帯に対応する可視光源を用い、同錯体の光反応性を調査した。反応条件を種々検討した結果、塩素ラジカル源共存下、室温下で錯体溶液に対し光照射すると、低収率ながらシクロメタル化配位子の塩素化体の生成が確認された。この結果は、錯体の光励起に伴う塩素引き抜き反応の進行を示唆している。この結果に基づき、配向性官能基を有するアレーン基質のC-H塩素化反応を試みたところ、実際に可視光照射下で基質の塩素化体の触媒的生成が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Half-Lantern型Pd(II)二核錯体の光化学特性調査および理論研究から、同錯体が可視領域に1MMLCT吸収帯をもつこと、および最低励起三重項状態において金属ラジカル性を発現することを示唆する結果を得た。また光反応性調査から、同錯体が塩素ラジカル源共存下で光励起により量論的な塩素引き抜きを起こすことが分かった。さらに、同錯体が可視光照射下で配向性官能基を含むアレーン基質のC-H塩素化体を触媒的に与えることを明らかにした。これらの知見は、いずれも本研究課題の目標とする、金属ラジカル種を用いる光触媒的C-H官能基化反応の開拓に重要なものであり、研究は概ね順調に進んでいると考えている。 Half-lantern型Pd(II)二核錯体は、従来よりアレーン基質の熱的なC-Hハロゲン化反応を触媒することが知られていたが、この過程には、ハロゲン原子を含む強力な酸化剤の添加が必要とされてきた。これに対し、本反応は、穏和な条件下で進行し、且つ安価で取り扱い容易なハロゲン化炭化水素をハロゲン源として利用可能にすることから、新しい形態のC-Hハロゲン化反応として期待される。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に見出したHalf-lantern型Pd(II)二核錯体を用いる光触媒的C-H塩素化反応について、触媒分子の構造や光照射条件等の反応条件を最適化することにより、反応生成物の収率向上を目指す。その後、種々の官能基を導入したアレーン基質を用いて、同反応の基質一般性を調べる。これらと並行して、実験的および理論的アプローチから、本反応の機構について明らかにする。さらに、新たな触媒設計に基づき、配向性官能基を持たない炭化水素基質にも適用可能な光触媒的C-H官能基化反応の開発にも着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の所要額を概ね満たしたものの、少額の端数が生じたため。次年度の物品購入に充てる予定である。
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