研究課題/領域番号 |
19K15582
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村田 慧 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (80755835)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光触媒反応 / 金属ラジカル / ハロゲン化 / パラジウム錯体 / 可視光 |
研究実績の概要 |
本研究は、π共役系配位子を有するHalf-lantern型d8-d8二核錯体のMMLCT(Metal-Metal-to-Ligand Charge-Transfer)励起状態を利用した、新しい光触媒的分子変換反応の開発を目的とする。昨年度は、芳香族炭化水素基質の光触媒的C(sp2)-H結合ハロゲン化反応の条件最適化および基質一般性調査を行った。この結果を踏まえ、本年度はさらに高難度な光触媒的C(sp3)-H結合ハロゲン化反応への展開を目指し、新たにC(sp3)-H結合を持つ炭化水素基質を用いる検討に取り組んだ。 まず、酢酸パラジウム(II)をパラジウム源、およびハロゲン化炭素をハロゲン源に用い、可視光照射による触媒的ハロゲン化反応を検討した。種々のC(sp3)-H結合を有する炭化水素基質について検討した結果、特に8-メチルキノリンを用いた場合に標的とするC(sp3)-H結合ハロゲン化反応が進行することを見出した。対照実験により、本触媒反応の進行には、酢酸パラジウム(II)、ハロゲン化炭化水素、および可視光が必須であることが確かめられた。種々の実験および理論計算より、本反応は、(i)8-メチルキノリンのシクロメタル化によるHalf-lantern型二核Pd(II)錯体の生成、(ii)同錯体の可視光励起によるハロゲン化炭化水素からのハロゲン引き抜き、(iii)二核Pd(III)-X (X = halogen) 錯体からのC-X結合形成を伴う還元的脱離、および(iv)ハロゲン化体の遊離と新たな基質のシクロメタル化による二核Pd(II)錯体の再生により進行することが示唆された。以上の検討より、Half-lantern型二核Pd(II)錯体による光化学的ハロゲン引き抜きが、炭化水素基質の触媒的C(sp3)-H結合官能基化反応にも適用可能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに開発したHalf-Lantern型Pd(II)二核錯体による光触媒的C(sp2)-H結合ハロゲン化反応に基づき、本年度はより高難度な光触媒的C(sp3)-H結合ハロゲン化反応を達成した。反応条件の検討を通して収率の向上に成功し、種々の実験および理論計算からその反応機構の解明も進んでいる。現状、反応基質に配向性官能基が必須であるものの、最終目標である単純炭化水素基質の触媒的C(sp3)-H結合変換反応の実現に一歩近付いた形であり、本研究は概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度見出した、Half-Lantern型Pd(II)二核錯体による光触媒的C(sp3)-H結合ハロゲン化反応について、さらなる条件最適化と基質一般性調査を行う。また、本反応開発を通して得られた知見を踏まえ、メタンをはじめとする単純炭化水素基質のC(sp3)-H結合ハロゲン化反応の開発を目指す。さらに、ハロラジカル源として用いているハロゲン化炭化水素を他のラジカル源に代えることで、新たな形式の触媒的C-H結合官能基化反応の実現にも取り組む。次年度は本課題の最終年度となるため、一連の研究成果を投稿論文や学会発表で積極的に発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も引き続き、新型コロナ感染拡大の影響で研究時間が当初想定に比べ短縮されたこと、また多くの学会がオンライン化されたことから、物品費および旅費に残余が生じたため。これらは次年度の物品費および旅費に充てる予定である。
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