研究実績の概要 |
当該年度も引き続き、異常高原子価鉄イオンを含むBサイト岩塩型ダブルペロブスカイトLn2LiFeO6の探索を行った。まず、Ln2LiFeO6の中で唯一菱面体晶の結晶構造をもつLa2LiFeO6のLa3+サイトに価数の違うCa2+イオンの置換(La2-xCaxLiFeO6)を試み、サイト置換に伴うFeの価数及び物性の変化を調べた。高温高圧下での固相反応法を用いることで、Ca固溶量x=0.5までは、ほとんど単相試料の合成に成功した。また形式価数から考えると、Ca置換によりFeの価数が+5よりも高くなることが予想されるが、57Feメスバウアー分光結果から、実際にはFeの価数が+5よりも小さくなることが分かった。これは、Ca置換に伴い同時に酸素欠損が生じることを示唆している。次に磁化測定の結果から、母体であるLa2LiFeO6では強い反強磁性相関が働く一方で、Ca固溶量が増えるにつれて反強磁性相関が弱まり、x=0.5では強磁性相関が働くことが判明した。さらに、昨年度報告したLn2LiFeO6(Ln: La, Nd, Sm, Eu)に続いて、Ln2LiFeO6(Ln: Gd, Dy)の合成にも成功した。これらの物性の詳細については、今後調べていく予定である。 全体を通じて、異常高原子価鉄イオンを含む様々な新規酸化物を発見し、これらの物質の酸素イオンの脱離過程を含む物性を調べた。特にAサイト層状トリプルペロブスカイトYBa2Fe3O9では、200 ℃程度という非常に低い温度から酸素脱離が生じ始めることを明らかにした。これは、異常高原子価Fe3.67+状態の高い電子不安定性に起因していると考えられる。このように、異常高原子価イオンを含む酸化物は、典型的な酸化物よりもかなり低い温度で酸素脱離が生じ得ることを明らかにした。この結果は、低温で作動するイオン伝導体等の開発につながる重要な成果である。
|