本研究の目的は、高い酸化活性を有する、二核ニッケル(III)ジ(ミュー-オキシド)錯体の生成、および芳香族化合物などの有機物との反応挙動について、電荷を有する配位子が与える効果についての影響を明らかにすることである。 本研究の申請段階で構想した、スルホン酸基をテザード配位子とする、キノリルアルキルアミン4座配位子を合成し、そのニッケル二価錯体の合成は行うことができた。この錯体は、先行研究でその溶液挙動が研究されてきた比較対象となる錯体のものと大きく異なり、極めて過酸化水素に対して高い反応性を有することがわかった。しかしその反応性のために、活性中間体を観測することができなかった。また、有機溶媒に対する溶解性に乏しかったため、その反応性を効率的に検討することが難しいと分かった。 そこで代替的なアプローチとして、我々が以前報告した活性中間体を観測することが可能な系に、外部からカルボン酸アニオンを加えることで、アニオン配位子を持つ二核ニッケル(III)ジ(ミュー-オキシド)錯体の調製を試みた。アセテートを始めとするアニオンを二核ニッケル(III)ジ(ミュー-オキシド錯体の溶液に添加することによって、定量的に目的とする化合物が生成することが明らかになった。この錯体は、紫外可視吸収スペクトルおよび電子スピン共鳴スペクトルによって、そのキャラクタリゼーションを行った。2つのニッケル中心の酸化状態は保ったまま、それらの電子状態と、二核間の相互作用の大きさが変化していることがわかった。また、種々の有機化合物に対する反応性が10倍程度向上することが分かった。
|