最終年度となる本年度は,これまでゲストとして用いていたラセミのIr錯体をキラルなIr錯体へと変更し,錯体内包型超分子の形成がキラルな光物性に与える影響を調べた。ラセミ体のIr錯体を原料として既報のキラルな補助配位子を用いた手法によって光学分割を行い,ΔおよびΛのキラルIr錯体を合成した。そして,レゾルシンアレーン混合前後で円二色性(Circular Dichroism:CD)スペクトルおよび円偏光発光(Circularly Polarized Luminescence:CPL)を比較することで,超分子形成前後のキラルな光物性変化を調べた。その結果,超分子形成前後でIr錯体由来のCDおよびCPLスペクトルがピークシフトし,錯体内包型構造にすることでアキラルな光物性だけでなく,キラルな光物性も変化することを確認した。 興味深いことに,Ir錯体に嵩高いtBu基を導入した場合,上記の変化に加えて,円偏光発光の異方性因子g値も向上することが分かった。円偏光発光の異方性因子g値は,光励起過程における電子遷移双極子モーメントと磁気遷移双極子モーメント,およびそれらのなす角から導かれる物理定数であり,分子構造や分子対称性に依存する。用いた分子コンポーネントは超分子形成前後で化学構造に変化はないため,超分子化によって分子対称性が変化したことが予想される。現在,この仮説を確かめるための実験を進めており,学術論文としてまとめているところである。 以上のように,金属錯体・レゾルシンアレーン・対アニオンを適切に組み合わせることで金属錯体の様々な光物性を制御できることを確認できた。本研究課題によって,オンデマンドな発光特性を示す錯体内包型超分子を得るための,適切な分子コンポーネントの組み合わせに関する重要な知見が得られることとなった。
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