研究課題/領域番号 |
19K15591
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
田部 博康 大阪市立大学, 複合先端研究機構, 特任講師 (50803764)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 金属錯体 / 配位高分子 / シアノ架橋金属錯体ポリマー / 吸脱着 / 配位不飽和サイト |
研究実績の概要 |
1年度目では、様々なシアノ架橋錯体ポリマーのコアシェル型微粒子を合成し、コア部位とシェル部位の相互作用について明らかにすることを目指した。具体的には、Coイオンを含むシアノ架橋金属錯体ポリマーをシェルとするコアシェル構造のシアノ架橋金属錯体ポリマーを合成した。Coイオンを含むシアノ架橋金属錯体ポリマーが水の酸化反応に高い触媒活性に及ぼす理由として、触媒ナノ粒子の内部まで触媒活性点として機能している可能性があると考えた。そこで、不活性なCuII1.5[FeIII(CN)6]をコア部分に、活性を示すCoII1.5[CoIII(CN)6]をシェル部分として、シェルの厚みの異なるコアシェルナノ粒子CuII1.5[FeIII(CN)6]@ CoII1.5[CoIII(CN)6]を合成した。CuII1.5[FeIII(CN)6]@ CoII1.5[CoIII(CN)6]を水の酸化触媒、[Ru(bpy)3]SO4を光増感剤、Na2S2O8を犠牲的酸化剤として、これらを含むリン酸緩衝溶液(pH 8.0)を攪拌させながら可視光(波長:450 nm)を照射した。シェルの厚みが7 nmより薄い場合、触媒活性が劇的に低下した。したがって、CoCoの高い触媒活性は、最表面のみならず7 nm程度の下層までが触媒反応に関与することで与えられていることが明らかとなった。この反応の触媒活性点は、一般に、Coイオン上に発生する配位不飽和サイトである。したがって、粒子表面から7 nm付近までが、小分子が脱離することで生成する配位不飽和なCoイオンが分布する範囲であると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記「研究実績の概要」に記載した内容は、既に査読付き原著論文として掲載されている(H. Tabe et al., Applied Catalysis B: Environmental, 2020, 262, 118101)。この論文では、脱離しうる小分子として水分子を有するシアノ架橋金属錯体ポリマーについてのみ取り上げているが。現在、小分子としてアンモニアを有するシアノ架橋金属錯体ポリマーについても論文執筆中である。具体的には、プルシアンブルー型構造を有するシアノ架橋錯体ポリマーM[M’(CN)6]のうち、一部のCN配位子をアンモニア(NH3)分子に置換した錯体ポリマーM[M’(NH3)(CN)5]を合成し、各種分光学的手法や元素分析手法を用いることで、アンモニアの固定や脱離を詳細に解析している。
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今後の研究の推進方策 |
2年目に向けた予備検討を進めたところ、シアノ架橋金属錯体ポリマーを構成する金属イオンを置換することで、これらがアンモニアやリン酸イオンといった外来分子を選択的に吸脱着可能であると分かってきた。このような特性は、シアノ架橋金属錯体ポリマーが単なる小分子放出材料としてのみならず、様々な外来分子の選択的吸脱着材料や分離材料として利用できることを示している。現在、各種分光学的手法や元素分析手法、吸脱着測定などによる詳細な解析を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が以前使用していた科研費「外部刺激により小分子の吸脱着が可能な骨格を持つシアノ架橋金属錯体ポリマーの合成」(研究活動スタート支援、2017-2018年度)で購入した試薬の余りや、研究室にて所有する装置、ガラス器具を用いて多くの実験、測定を進めることができた。次年度使用額は、計画以上に進展した部分をもとにした追加実験、学会発表、論文投稿の費用に充当することを計画している。
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