研究課題/領域番号 |
19K15598
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
阿部 博弥 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60838217)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気化学 / 神経伝達物質 / MEMS |
研究実績の概要 |
脳内の数百μmスケールでの多様な神経伝達物質の可視化・関連付けを行うことで、海馬や前頭葉などの領域間における様々な情報伝達、つまり「脳内領域間コミュニケーション」を可視化することができる。これにより、多様な神経伝達物質と脳機能の関連性が明らかになり、脳科学・神経科学の発展に大きく貢献できる。これまでに、パッチクランプ法や電気化学プローブ等のプローブ型電極や、光学的手法や機能的磁気共鳴画像法などの分析技術の発達により、脳機能や神経変性疾患への理解が確実に深まっている。これまで阿部は、集積回路型電気化学イメージングデバイスを開発し、直径数百μmの神経細胞凝集塊から放出される神経伝達物質をリアルタイム計測することで、定量的評価・薬剤応答評価を達成している。本研究では、領域間コミュニケーションにおける神経伝達物質の可視化を可能とする超高感度・多項目・広範囲・リアルタイムイメージング可能な新規電気化学デバイスを開発する。本デバイスでは、「集積回路型電気化学イメージングデバイス」と、神経伝達物質の超高感度検出が可能な「レドックスサイクル誘導電極アレイ」および「酵素修飾電極」を組み合わせることで、超高感度・多項目解析を実現し、脳内の各領域間コミュニケーション、特に刺激に対する様々な神経伝達物質の関連性の解明を目指す。阿部はこれまで、1年目となる本年度は、レドックスサイクル誘導電極アレイの作製および組織工学を利用した脳模倣組織の作製を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年までは、1年目となる本年度は、従来型電気化学イメージングデバイスを改良し、(1) レドックスサイクル誘導可能な電極アレイの作製を行った。さらに、脳組織イメージングに向けて、(2) 組織工学を利用した脳模倣組織の作製を検討した。 (1) レドックスサイクル誘導可能な電極アレイの作製 : レドックスサイクル誘導可能な電極では、酸化および還元電極が数μmで隣り合うことで、酸化電極で酸化された測定物質が隣の還元電極に拡散し、還元電極にて酸化された測定物質が還元される。この酸化還元反応をマイクロ電極内で繰り返し行われることで、1つの物質が何度も電極上では反応するため、シグナル増幅が誘導される(レドックスサイクル)。これにより、従来型の電気化学測定システムより2 倍以上のシグナル増幅が達成された。本研究成果は、学術論文としてSensors and Actuators B: Chemicalに掲載された。 (2) 組織工学を利用した脳模倣組織の作製 : 測定対象とする脳組織はラットなどの脳スライスの他に、人工的細胞組織を作り上げた脳模倣組織も対象としている。この組織は、単純化されているため、既知の神経伝達物質が組織から放出され、容易に解析できることができる。本年度は、人工的な組織の細胞組織を作成するための3次元足場材料の検討を行った。3次元足場材料は、阿部が新たに見出したドーパミンとゼラチンの複合材料を用いた界面重合を用いて作製した。この界面重合を利用した3次元組織を使うことで、血管様構造の作製に成功している。本成果は、詳細な検討を加え論文投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、脳組織間コミュニケーションを可視化する新規電気化学デバイスを作製することである。2年目では、この目的達成のために神経伝達物質の選択性および感度を向上したデバイスを作製し、作製したデバイスを用いた神経伝達物質の可視化を予定している。具体的には、電極間の間隔を狭めることによる電極の高密度化およびレドックスサイクルの効率向上を目指す。この時、シミュレーションを含めた検討を事前に行うことでデバイスの最適化を図る。同時に、複数の神経伝達物質の多項目同時計測を実現するために、酵素を修飾した電極アレイの作製も検討する。さらに、脳模倣3次元組織を作製のために、ポリドーパミンとゼラチン複合材料の詳細な条件検討を行う。また、バイオプリンターと組み合わせることでより高精細な脳模倣3次元組織の作製を目指す。
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