研究課題
本年度は昨年度からナノ・マイクロサイズの凍結濃縮溶液(FCS)と氷が成す界面のキャラクタリゼーションを行うため、熱フォノン共鳴スペクトルの測定装置の構築を開始した。光ピンセット用のLEDレーザーシステムを用い光学系を構築した。測定は今後行う予定であり、まずはキャピラリーに封じられた溶液のフォノン共鳴スペクトルの取得を行う。また、別のアプローチから氷/FCS界面での相転移による界面ゆらぎを解明するため、光熱変換分光法を適用する予定である。一方で、FCS内での化学反応メカニズム解明のために、ルテニウム錯体の消光反応を速度論的に解明することで、FCSが化学反応に及ぼす影響を解明した。モデルとして、拡散律速と電子移動律速の反応系を比較したところ、電子移動律速系における電子移動反応が著しく阻害される結果を得た。これは、FCS内の溶媒構造が氷のヒステリシスを含んでおり、溶媒和エネルギーが大きくなっているものと考えられる。この結果をさらに検証するために、FCSと同じ組成を有する溶液を用いてバルク状態での速度論的解析を行い、氷に囲まれた状態で発現する溶媒的機能の解明を行う。昨年度開発した画像解析型顕微分光システムはさらに発展させ、うごめく界面の一例として層流によって構成される水性二相界面におけるプロトン移動現象の解明を行った。
3: やや遅れている
本年度は(1)COVID-19蔓延による移動制限により共同研究における予備実験が停滞したこと(2)予備検討から熱フォノン共鳴スペクトル測定から光熱変換分光法への転換があったため熱フォノン共鳴スペクトルの測定までに至らなかった。一方で、昨年度開発した画像解析型顕微分光法の適用可能性を広げたこと、また、FCS内での光化学反応のメカニズムにおいてFCSが果たす役割を考察するための実験結果・知見が得られたことは大きな収穫であった。来年度は、特に熱スペクトルによる界面のキャラクタリゼーションに重きを置いて実験を推進する。
熱フォノン共鳴スペクトルの実験については、光学系の構築は完成したため、来年度は原理検証と試料測定を行う。また、光熱変換分光法を用いた界面評価も行うことで、従来の研究計画よりもより堅牢な議論ができると考える。一方で、ルテニウム錯体をプローブとしたFCSの溶媒としての特性の解明はバルクとは異なる傾向が見えたことから、今年度も様々な反応系を用いて実験し多角的にFCSをとらえていく。
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すべて 雑誌論文 (6件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件)
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