リン酸イオンセンシングの反応場として溶媒抽出系を利用した場合は,均一溶媒系とは異なり,検出と同時にリン酸イオンを除去できるという利点がある。溶媒抽出の媒体としてイオン液体を用いると,無電荷種に加えて,イオン液体を構成する成分とのイオン交換により荷電種も抽出できることから,従来の有機溶媒系では不可能であったリン酸イオンの溶媒抽出系を構築することができ,イオン液体相への抽出分離により極微量リン酸イオンのセンシングが可能になると期待できる。本研究は,多点認識型希土類錯体を合成し,抽出発光センサとして用いることで,リン酸イオンの高効率かつ選択的なイオン液体抽出分離系を構築し,発光特性の変化に基づいたリン酸イオンの高感度発光センシングシステムを開発することを目的としている。本年度は,合成したユウロピウム錯体を用いて,イオン液体1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([C4mim][Tf2N])に抽出されたユウロピウム三元錯体の分光特性を解明し,リン酸イオンセンシング能を評価した。 β-ジケトン型配位子を有するユウロピウム錯体を溶解させたイオン液体[C4mim][Tf2N]相とリン酸イオン及びハロゲン化物イオンなどの種々のアニオンを含む水相とを振とうし,抽出前後のイオン液体相の蛍光スペクトルを測定したところ,リン酸イオンに対して蛍光特性の大きな変化が観測された。リン酸イオンは配位不飽和であるユウロピウム錯体と錯形成することで定量的にイオン液体相に抽出され,中心ユウロピウムイオンの配位環境の変化により蛍光特性が大きく変化したと考えられる。これに対して,検討した他の一般的なアニオンに関しては,リン酸イオンと同様の蛍光変化は見られず,構築したイオン液体抽出分離系により,リン酸イオンの発光センシングが可能であることを明らかにした。
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