研究課題/領域番号 |
19K15607
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
有賀 智子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (40784111)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酸化物イオン / 多原子イオン / zone shift / オキソ酸 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)における有機溶剤効果のメカニズム解明を目指して、主に以下の①、②の2つの調査を行った。 【調査の具体的な内容】 ① 従来の有機溶剤効果の評価手法とは異なるプラズマ内信号分布変化に基づいた評価手法を確立した。合計29元素にその評価手法を応用して有機溶剤効果発生の有無を元素ごとに調査した。② ①の結果から有機溶剤が元素のプラズマ内プロセスに影響を与えたことが有機溶剤効果発生の直接の原因になっている可能性が示唆されたことから、顕著な有機溶剤効果が現れたヒ素(As)のプラズマ内プロセスに有機溶剤が与える影響について調査した。具体的には、安定同位体酸素18標識の亜ヒ酸水溶液をICP-MSで分析し、ヒ素酸化物イオン(AsO+)のプラズマ内信号分布の変化を有機溶剤の有無で比較した。 【調査の結果とその重要性・意義】 ① 有機溶剤効果はリン、As、セレン、テルル、ヨウ素のように高い第一イオン化エネルギーを有し、なおかつ水溶液中でオキソ酸の形態をとる元素に特有の現象であることが示された。先行研究では、有機溶剤効果の有無を決定するのは元素の第一イオン化エネルギーであると考えられており、その化学形態については着目されてこなかった。本研究で得られたこの知見は新しいものであり、今後有機溶剤効果のメカニズム解明にも繋がり得る重要な成果と言える。② プラズマ内には位置ごとにいくつかの異なるプロセスで生成したAsO+が局在しており、これらのうち有機溶剤は特定のAsO+生成プロセスを促進していることが示唆された。有機溶剤が元素のプラズマ内プロセスのどの経路にどのようにして影響しているかを明らかにすることは、有機溶剤効果のメカニズムを解明する上で非常に重要である。そこで、今後はAsO+の生成プロセスと、そのプロセスに有機溶剤がどのように影響しているのかをさらに詳細に調査する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の有機溶剤効果の評価手法とは異なるプラズマ内信号分布変化に基づいた評価手法を確立し、それを複数の元素に応用することで、有機溶剤効果は高い第一イオン化エネルギーを有し、なおかつ水溶液中で亜ヒ酸の形態をとる元素に特有の現象であることを初めて示した。また、プラズマ内には位置ごとにいくつかの異なるプロセスで生成した酸化物イオンが局在しており、有機溶剤が特定の生成プロセスを促進することで有機溶剤効果が発生している可能性が示唆された。本年度の研究成果から得られたこれらの知見は、有機溶剤効果のメカニズムを解明する上で非常に重要な知見であり、本研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
安定同位体酸素18標識の亜ヒ酸水溶液の分析をさらに進め、炭素増感効果のメカニズム解明のために必須の情報である、AsO+のプラズマ内生成プロセスとそのプロセスに有機溶剤が及ぼす影響について詳細に調査する予定である。また、当初は二年次に安定同位体酸素18標識の亜セレン酸の分析を行うことを計画していたが、受注生産を依頼していた試薬メーカーから当該試薬の生産が技術的に困難である旨の回答があったため、亜セレン酸の分析は断念した。なお、今後予定している亜ヒ酸水溶液の分析だけでも研究目的達成のための十分な知見が得られると予想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
硝酸を購入する予定であったが十分な量が確保でき購入の必要がなくなったため、その分の金額が差額として生じた。 繰り越した助成金は二年次に硝酸の購入に使用する予定である。
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