研究課題
本研究では、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)において有機溶剤分析の定量性を低下させる要因となっている炭素増感効果のメカニズム解明を目的として、1. 有機溶剤が引き起こすプラズマ内の信号分布変化を考慮した有機溶剤効果の評価手法の確立を行うとともに、2. 増感元素としてヒ素(As)に着目し、安定同位体酸素18で標識した亜ヒ酸を用いて、プラズマ内でのヒ素酸化物イオン(AsO+)の生成過程とその過程に有機溶剤が与える影響を調べた。1. 確立した手法を用いて合計29元素について評価した結果、有機溶剤(イソプロパノール; IPA)の添加によりリン(P)、As、セレン(Se)、ヨウ素で大幅な増感が見られた。これらの元素は全て共通して測定試料中でオキソ酸として存在していた。また、P、As、Seにおいてはその酸化物イオンの信号強度も特徴的に増加することが示され、酸化物イオンの生成過程および有機溶剤がその過程に与える影響を解明することが本研究の目的達成の鍵になると思われた。2. AsO+の生成過程およびその過程に有機溶剤が与える影響を調べるため、酸素18標識亜ヒ酸水溶液にIPAを添加した場合、しなかった場合のそれぞれについてICP-MSで分析し、As18O+とAs16O+のプラズマ内信号分布図を作成し比較した。その結果、AsO+はプラズマ内では主に2つの過程:(i) オキソ酸の分解および (ii) As+と酸素の再結合を経て生成しており、有機溶剤は(i)を促進していることが示唆された。本研究からAsの炭素増感効果のメカニズムとして以下が推定された:有機溶剤由来の炭素がプラズマ内での亜ヒ酸の分解を促進しAsO+が増加した結果、AsO+の分解によって生じるAs+も増加する。以上の結果は対象をAsに限って検証したものであるが、炭素増感効果のメカニズム解明のために重要な知見を示したと言える。
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Bulletin of the Chemical Society of Japan
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10.1246/bcsj.20210047