研究実績の概要 |
キチンは窒素原子を含む糖の高分子であり、含窒素有機化合物の原料としての利用が期待される。しかし、キチンを出発物質とした有用化学品への効率的な変換は達成されていない。そこで、本研究では糖を水素還元することによって得られる糖アルコール2-acetamide-2-deoxysorbitol (ADS)を出発物質とした有用化学品の合成経路を開発する。具体的には、医薬品、ポリマーの原料となるアミノアルコール誘導体2-acetamide-2-deoxyisosorbide (ADI)の合成を、ADSの酸触媒による分子内脱水縮合反応により行った。 ADSの脱水縮合反応はソルビトールやマニトールといった糖アルコールと同様にSN2反応により進行する。まず,ADSの1, 5位,1, 4位,3, 6位で脱水縮合が起こり、一分子脱水縮合体である1,5-anhydro-ADS、1,4-anhydro-ADS、3,6-anhydro-ADSが生成する。これらの生成物のうち、1,4-anhydro-ADSと3,6-anhydro-ADSは目的生成物であるADIの中間体であり、それぞれ二段階目の脱水縮合が起こることでADIが生成する。 ADIの収率は酸の量によって大きく変化した。ADS 1 mmolに対してトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH) 0.1 mmol (S/C = 10)を用いて減圧下で3時間反応を行ったところ、ADIの収率は0.9%と非常に低い値となった。そこで、TfOHの添加量を0.5 mmol (S/C = 2) に変えた場合、ADIの収率は33%に向上した。この理由を明らかにするためにDFT計算を行ったところ、ADSのアセトアミド基の酸素原子が酸のプロトンを捕捉し、ADSの脱水縮合には大量の強い酸が必要であることがわかった。
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