研究実績の概要 |
キチンは窒素原子を含むN-acetylglucosamine (NAG)のポリマーであり、含窒素有機化合物の原料としての利用が期待される。我々は、キチン由来糖アルコールである2-acetamide-2-deoxysorbitol(ADS)をHOTf触媒により脱水縮合することで、ポリマーや医薬品の原料として期待される2-acetamide-2-deoxyisosorbide(ADI)が収率33%で得られることを報告している。しかし、アセトアミド基の酸素原子にプロトンが捕捉されるため、反応が遅く副反応を起こしやすいことが課題であった。そこで、プロトンの捕捉を阻害するために酸素との親和性が高いルイス酸を添加し、ブレンステッド酸と組み合わせて反応を行った。 ADSの脱水縮合反応はソルビトールやマニトールといった糖アルコールと同様にSN2反応により進行する。まず,ADSの1, 5位,1, 4位,3, 6位で脱水縮合が起こり、一分子脱水縮合体である1,5-anhydro-ADS、1,4-anhydro-ADS、3,6-anhydro-ADSが生成する。これらの生成物のうち、1,4-anhydro-ADSと3,6-anhydro-ADSはADIの中間体であり、それぞれ二段階目の脱水縮合が起こることでADIが生成する。また、5-O-acetyl ADIは基質または生成物の脱アセチル化により生成した酢酸とADIが反応して得られる副生成物である。 ルイス酸としてメタルトリフラートM(OTf)3 (M = La, Er, Tm, Yb, Lu, Sc) 0.1 mmol (S/C = 10)を使用してスクリーニングを行ったところ、いずれの場合にもADSの脱水縮合の促進が確認された。特に、HOTfとYb(OTf)3を組み合わせることで、収率40%でADIが得られた。Yb(OTf)3による収率向上の要因を明らかにするために、反応の初期生成物を調べた。すると、1,5及び1,4-anhydro-ADSの収率がYb(OTf)3の添加により減少し、3,6-anhydro-ADSの収率が増加することが明らかとなった。Yb(OTf)3はADSのアミド基に配位することにより位置選択性を変化させ、副反応の1,5-脱水を抑制し、ADI収率を向上させたと考えている。
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