研究課題/領域番号 |
19K15622
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西川 剛 京都大学, 工学研究科, 助教 (30826219)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ラジカル重合 / 制御重合 / ホウ素 / 高分子反応 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
本研究ではホウ素の特異な元素特性・含ホウ素化合物の多様な分子設計の可能性に着目し、アルケニルボロン酸エステルをモノマーとするラジカル重合/共重合の開発、並びにホウ素上官能基が重合性に与える影響に関して検討を行った。実験的検討に先立ち、汎密度関数理論(DFT)に基づく量子化学計算の手法を用いて、重合に利用可能なアルケニルボロン酸エステルモノマーの分子設計を探索した。重合において想定される成長ラジカル種のエネルギーについて調べたところ、ホウ素上保護基の影響により成長ラジカル種の安定性は大きく変化することが明らかとなった。具体的には、ホウ素がsp2軌道をとる構造を持つもの(ピナコール、ジアミノナフタレン、アントラニルアミド等を保護基構造として有するもの)に関してはホウ素のp軌道が成長種のラジカル炭素中心に影響を与え、安定化することが示唆された一方、ホウ素がsp3軌道を持つもの(N-メチルイミノ二酢酸を保護基として有するもの、トリフルオロボレート型のもの)は成長ラジカル種が相対的に不安定であることが分かった。この結果はアルケニルボロン酸エステル誘導体をラジカル重合モノマーとして用いる上で、ホウ素がsp2軌道をとるよう分子設計することが重要であることを意味する。この結果に基づき、実際に対応する構造を有するホウ素モノマーを合成し、アゾビスイソブチロニトリルを開始剤とする典型的なフリーラジカル重合の条件に付したところ、計算結果から予想された通りホウ素がsp2軌道を有するもののみがラジカル重合性を示し、対応するポリマーを与えた。また、これらのホウ素モノマーはスチレンやメチルメタクリレートなどの汎用ビニルモノマーとの共重合も可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アルケニルボロン酸エステル誘導体をモノマーとして用いる上での分子設計の指針が得られたことは極めて重要な成果である。これまではモノマーとして利用するアルケニルボロン酸エステル誘導体のホウ素上保護基はピナコールに限られていたために、分子設計に基づく重合性・共重合性・変換性のチューニングは困難であった。ホウ素がsp2軌道をとるという条件に基づくことで様々なホウ素上保護基を導入したモノマーを設計可能となったことにより、本研究の大きな広がりが期待できる。含ホウ素化合物の反応性がホウ素上保護基の分子設計によりチューニングが可能であることは、有機合成化学の分野においてこれまで多くの知見が蓄積されており、それらをモノマー設計に活かすことで多様な重合の実現が予想される。また、高分子反応におけるホウ素の変換に関しても、ホウ素上保護基の選択肢が広がることで導入可能な官能基が拡張され、従来法では合成困難なポリマーを得るための含ホウ素ポリマーの合成中間体としての利用価値も高まると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は様々なホウ素上保護基を導入したアルケニルボロン酸エステル誘導体に関して、その重合性・共重合性・変換性に関する基礎的な知見を収集すると共に、制御ラジカル重合の適用による精密高分子合成を主に進める予定である。これまでの重合性・共重合性に関するデータからもホウ素上保護基の分子構造がモノマーとしての性質に大きく影響することが明らかになりつつあり、適用可能な制御ラジカル重合法(原子移動ラジカル重合, ニトロキシド媒介ラジカル重合, 可逆的付加-開裂連鎖移動重合等)やその条件も異なる可能性がある。この最適化プロセスにおいても量子化学計算を用いる事前検証が有効に機能する可能性が高いため、これを積極的に進めて効率の良い最適化に努める。これらと並行して、ホウ素上保護基として高分子反応における効率の良い変換が期待できるものを導入し、従来法では困難な高分子合成を実現する手法の確立を狙う。酸化によるヒロドキシ基導入に基づくビニルアルコール共重合体や、ハロゲンへの変換による塩化ビニル共重合体などが実現できれば社会的に大きなインパクトを与えることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルケニルボロン酸エステル誘導体の重合性を効率よく検証するために、事前にラジカル重合性の予想を汎密度関数法(DFT)による量子化学計算に基づいて行う手法の確立に尽力した。その結果、シンプルな重合性の検証のための網羅的な合成試薬の購入が必要なくなり、使用額が当初の予想よりも大幅に減少した。次年度においてはホウ素上保護基の設計自由度の高さに立脚した高分子反応適用の拡大を目指すため、モノマーの合成のために必要な試薬購入が当初計画よりも多くなる可能性が高く、次年度使用額はこれに充てる予定である。また、当初参加予定であった国内学会・国際学会の多くがオンライン開催に変更、もしくは中止されたことにより出張費が大幅に減少したことも次年度使用額が生じた理由の一つである。
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