高分子を基材に固定したポリマーブラシは、特異な表面物性を示すため、学術的にも産業的にも興味深い。この合成には、基材表面に固定された重合開始性官能基から精密ラジカル重合等によりポリマーを成長させる手法が広く用いられている。しかし、殆どの手法では、空気中の酸素が反応を阻害するため、密封容器中での脱気等により反応液中の溶存酸素の除去を予め行う必要があるため、ポリマーブラシの合成は難易度が高いと認識されてきた。近年、我々は、還元剤(アスコルビン酸)の利用により、大気開放系でハケ塗りの様式で簡単に実施可能な精密ラジカル重合法(Paint-on法)を開発し、大面積ポリマーブラシの試作に成功した。本研究では、Paint-on法をさらに改良し、ポリマーブラシ実用化に向けた合成新技術の開発を目的とした。 本年度は、前年度までに改良を施したPaint-on法に種々の添加剤を組み合わせ、大気開放系でも長期間反応性が持続するポリマーブラシ合成用反応液の開発を試みた。モデルモノマーとしては、前年度までにプロトタイプの合成実績があり、種々の添加剤の働きを阻害しにくいアクリルモノマーであるポリ(エチレングリコール)メタクリラートを採用した。ポリ(エチレングリコール)メタクリラート、水、銅触媒、配位子、アスコルビン酸からなるPaint-on反応液に、生体内での作用が知られているチオール、酵素、補酵素等を添加した新組成の溶液を作製し、新規に稼働した溶存酸素センサーを用いて、その耐酸素性を評価した。これにより、種々の添加剤が反応液の寿命に与える影響を体系的に調査できた。さらに、上記の溶液を用いて合成した試料の表面形態、濡れ性、膜厚を評価することにより、平滑/親水性で十分な膜厚を有するポリマーブラシを合成できる反応液が開発できたことを確認した。本課題を通じて、ポリマーブラシの実用研究に関する重要な知見が得られた。
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