本研究の目的は、燃料電池やリチウムイオン電池の電極作製に利用されるようなスラリー液や多孔質体構造について、X線散乱から得られる凝集体フラクタル構造情報をどのように活用できるか検討するものである。研究期間内には、1)カーボンブラック/ポリマー分散液およびその固体膜、2)シリカナノ粒子/ポリマー分散液およびその固体膜を調製し、X線散乱を利用した解析を主に行った。 1)については、本年度も引き続き検討を行い、カーボンブラックの粒子サイズや粒子表面官能基が異なるものを利用し、カーボンブラック/ポリマー組成比の異なる分散液を調製し、分散液およびその固体膜を作製した。カーボンブラック/ポリマーの組成比の調製により、カーボンブラックの分散状態を長時間保持する分散液が作製でき、また乾燥途中に相分離することなく固体膜を作製することができた。X線散乱測定の結果、分散液においてはポリマー添加量によるフラクタル次元の変化は確認できなかったが、強度プロファイル上のピーク強度の違いが計測できた。今後分散性の評価に適用できる可能性を見出した。固体膜の凝集体表面フラクタル次元においては、ポリマー添加量に応じて0.01~0.03程度のわずかな変化のみが確認できた。 2)サイズ・形状分布の広いカーボンブラックに対して、粒形サイズ・形状の均質なシリカナノ粒子を調製し、シリカナノ粒子/ポリマー分散液および固体膜について検討を行った。フラクタル次元においてはカーボンブラックの場合と同様にわずかな変化しか計測できなかった。他方で、シリカナノ粒子および分散液をスピンキャストして作製した薄膜のGISAXS測定を行ったところ、シリカナノ粒子が精緻に並んだ状態を計測することができた。シリカナノ粒子を利用した分散液乾燥工程の解析や固体膜構造のサイズ分布効果の検討への展開が期待できることを見出した。
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