研究課題/領域番号 |
19K15635
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ハロゲン結合 / 超分子ポリマーネットワーク / カチオン重合 / ビニルエテル |
研究実績の概要 |
本研究では、より柔軟なポリマー(カチオン重合法が可能なビニルエーテルを使用)とより選択的な分子間相互作用(ハロゲン結合を使用)を用いた超分子ポリマーネットワーク(SPN)の形成への影響を調べるプロジェクトの2年目の進捗状況を報告する。 本プロジェクトで開発された新規のハロゲン結合を有するビニルエーテルのモノマー合成と重合の結果を普及させるためには,ホモポリマー合成のさらなる最適化と19FNMRによるハロゲン結合の調査が必要であった。ハロゲン結合の研究では、興味深い結果が得られたため、当初予定していた研究からの変更を余儀なくされた。具体的には、1対1の単純なハロゲン結合アクセプターを使用すると、モノマーとポリマーの両方のサンプルで同じようなハロゲン結合能力が得られるという、ハロゲン結合の分野ではユニークな結果が得られた。一方、4つのアクセプターポイントを持つハロゲン結合アクセプターを用いた場合には、モノマーに比べてポリマーのハロゲン結合能が明らかに向上していた。これは、ポリマーが優れたレベルの分子間相互作用を提供し、より安定した超分子材料を提供できることを示唆しており、本プロジェクトが超分子材料の形成を進める上で、非常に有望な結果である。 また、さまざまなポリマー構造を合成するための初期研究も開始された。ハロゲン結合性モノマーと非ハロゲン結合性モノマーであるイソブチルビニルエーテルを共重合してコポリマーを作ると、より複雑な構造が得られる。ランダム共重合体やABジブロック共重合体などである。また、ハロゲン結合性モノマーと非ハロゲン結合性モノマーの比率を変えての検討も始まった。 来年も引き続き、星型共重合体を含むさらに多様な構造のポリマーを合成し、ハロゲン結合能力だけでなく、超分子構造を形成する能力を調べることに主眼を置いた研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この研究では、当初の予測では、超分子構造の形成過程の調査を中心に、多様なポリマー構造を年度の半ばに完成させる予定であった。モノマーの合成は順調に進んだが、結果を正しく伝えるためにはさらなる最適化が必要であったため、研究が少し遅れてしまった。さらに、さまざまな共重合体構造の合成研究が始まった一方で、今回のプロジェクトでは3種類のハロゲン結合を持つビニルエーテル系モノマーの重合挙動が異なるため、当初予想していた以上にポリマー構造を徹底的に調べる必要があった。具体的には,ランダム共重合体では,重合速度と両モノマー(イソブチルビニルエーテルまたはハロゲン結合ビニルエーテル)の取り込みのいずれもが,ホモポリマーの研究から予想外に逸脱していた。このことは、協力的なメカニズムを示唆しており、これらの材料のカチオン重合のメカニズムをより深く理解するという観点から非常に興味深いものである。したがって、単にポリマー構造を合成して使うのではなく、より深く重合を検討する必要があると考えられる。 最後に、ハロゲン結合特性の解析は予定よりも早く進んだが、興味深い結果が得られたため、モノマーとポリマーの違いやアクセプターの種類の影響を調べるのに、当初考えていたよりも時間がかかってしまった。このように、ハロゲン結合性の研究だけでも、当初想定していたよりもはるかに大きな研究領域になることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
このプロジェクトの主な目的は計画通りに進めることを意図しているが、当初の予想よりもより詳細な検討を行う箇所がいくつかある。これには、コポリマーのハロゲン結合能力の検討に加えて、モノマーとホモポリマーのハロゲン結合能力のより詳細な調査が含まれる。特に、使用されるアクセプターについては、より詳細な検討が必要であると思われる。低分子アクセプターに加えて、より大きなポリマーベースのアクセプターの開発が計画されている。そのためには、RAFTを利用したカチオン重合法を用いることが予定されている。これまでに文献で報告されているような適切なカチオン源を開発すれば、A部分にアクセプターユニットを含むユニークなABAトリブロック共重合体の形成が可能になるはずである。 また、ランダム共重合体の重合速度が驚くべき結果であったことから、モノマー鎖長のハロゲン結合モノマーの影響をより深く検討するとともに、カチオン重合プロセスにおけるヨウ素部位の影響についても検討する予定である。 最後に、超分子材料を形成するために、形成できるポリマー構造の種類をさらに多様化することを計画している。具体的には、星型の共重合体を合成し、そのハロゲン結合能を調べる予定である。星型のポリマーは、アクセプターユニットとの接触を高め、様々な超分子材料を実現するための新たな手段となることが期待される。 本研究の目的は、どのような構造が超分子ポリマーネットワークの形成を促進するのかを明らかにすることであり、可能であれば、ラジカル重合法に基づく類似のシステムとの比較や、水素結合システムとハロゲン結合システムとの比較によって、これらの材料の特性を検討することである。ネットワーク材料の詳細な研究は、本研究の助成期間を超えて行われることが期待されている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で延長を要請した理由は2つある。まず、昨年の新型コロナウイルスの影響により、計画されていた研究や研究結果の普及に予想外の支障が生じた。時には、緊急事態宣言が出され、研究が完全に中止されることもあった。このような強制的な休息期間やパンデミックによるその他の要因により、研究は計画通りに進まなかった。第二に、モノマー合成、ホモポリマー合成、ハロゲン結合の初期特性評価などの作業を最終的に終えたことで、当初の予定以上に研究が進んだ。様々な構造のポリマーの合成が予定ほど早く進まなかったのは、ビニルエーテルモノマーやポリマーのハロゲン結合能力に関して興味深い結果が得られたことも理由の一つである。また、より複雑な構造のポリマー合成が開始されたが、これも予想外の重合速度という興味深い結果が得られた。このように、予想外の結果をより詳しく調べる機会があったため、研究は思うように進まなかった。 また、予定していた成果の発表についても、新型コロナウイルスの影響を受けて一部が遅れてしまった。国際会議への参加は、当初2020年を予定していたが、渡航禁止令の影響で計画が複雑化した。最終的に多くの学会がオンラインで開催されるようになったが、学会のオンライン化が安定してきた2021年に成果を発表するのが最適だと判断した。
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