研究課題/領域番号 |
19K15638
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
畠山 歓 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (90822461)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機二次電池 / 機械学習 / ポリエーテル |
研究実績の概要 |
本研究では二次電池の全部材を高分子で構成した「オールプラスチック電池」の概念実証を目的として、動作の必要部材である電極並びに電解質を構成する機能性高分子の設計と合成に着手している。実証の為には、高分子に対して電荷貯蔵能・イオンと電子の輸送能・機械強度等の多岐に亘る機能を付与する必要がある。データ科学と精密重合の視点を取り入れ、本課題の解決に取り組んだ。 当該年度の研究計画に従い、機械学習を利用した機能性高分子を探索した。分子構造とイオン伝導度等の実測物性の関連を公知文献より収集し、ゲート型グラフニューラルネットワークでの構造認識とガウス過程回帰を用い、熟練者に匹敵する精度での物性予測を実現した。電池部材は高分子や低分子添加剤等のブレンドとして利用される事も多いが、専用のアルゴリズムを作成し、組成物に対しても機械学習を実践した。また、精密かつ迅速に関連高分子群を合成する為、ポリエーテルのリビング重合とチオール・エン反応でのポスト処理に取り組んだ。本手法により、例えば、イオン解離度の高いトリフルオロメタンスルホニルイミド基を高密度で有するポリグリシジルエーテルを精密合成し、高分子イオン伝導体として得た。従来主流の当該モノマーからのイオン重合法では副反応により合成困難であったことから、有力な合成ルートの例としてこれを位置づけた。合成した高分子群を用い、液体電解液を一切用いない全固体型のプラスチック電池も試作した。一連の成果は査読付き学術誌や国内外の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画通り、データ科学に立脚した高分子合成と精密合成に取り組み、ポリエーテルからなる全固体有機二次電池を試作した。計画時の予想を超える成果も得られた。例えば二次電池の動作時に課題と想定された、負極有機活物質と大気中酸素の副反応(自己放電)が、高分子固体条件では、大幅に抑制出来ることが分かった。液体条件とは対照的な成果であり、有機電池の社会実装に向けた足がかりと位置づけられる。また、研究計画では分子運動性の高い脂肪族ポリエーテルを主対象と想定してきたが、硫黄置換体の芳香族ポリチオエーテルがガラス状態でも従来のWLF型モデルでの予想を超えて高い伝導度を示すことも見いだした。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、データ科学に立脚した高分子探索と精密合成を進め、固体二次電池の試作と原理解明を推進する。機械学習の解析対象を拡張するため、グラフ理論の取り込みなどをもとに実験情報の汎用性高い記述法の検討とデータ処理を計る。今年度の研究では硫黄元素のイオン伝導に対する有用性が一部明らかになったことから、活物質ポリマーに対しても当該元素を導入するなどして、高分子固体条件でのイオン伝導度向上と、伝導メカニズムの解明に取り組む。一連の成果は国内・国際学会で発表し、さらに査読付き学術誌でも報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
事務用品等の消耗品代を想定よりも抑制出来た為、次年度使用額が生じた。 本額は翌年度に書籍等の消耗費の購入費に充てる予定である。
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