研究課題/領域番号 |
19K15643
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤田 聖矢 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員 (30824007)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ペプチド / ポリマーベシクル / コイルドコイル / ポリエチレングリコール |
研究実績の概要 |
今年度は、コイルドコイル形成ペプチドからなるポリマーベシクルの集合挙動、ゲスト分子内法挙動の評価方法を確立した。評価を方法を確立するために、ポリリジンおよびアニオン性のポリエチレングリコールを有するリジン誘導体からなるポリマーベシクルの評価を行った。これらの水溶液を混合させ動的光散乱(DLS)測定を行なった。その結果、150 nm程度の粒径の集合体が形成することが分かった。またcross section 走査型電子顕微鏡(FE-SEM)観察より、内部の空洞を有する集合体が観察された。これらのことから、ベシクルの構築に成功した。酵素としてカナマイシン耐性タンパク質であるNPTⅡをモデル酵素として用いた。NPTⅡは植物に対して毒性を有するカナマイシンに対してアデノシン三リン酸(ATP)のリン酸基を1つ転移させることで無毒化する酵素である。PICsomeが構築する際に、NPTⅡを混合しておくことで ベシクル内部へNPTⅡを内包させた。ベシクルに内包されなかったNPTⅡを透析により除去を行った。次に、NPTⅡをローダミンイソチオシアネートにより蛍光ラベルしたローダミン修飾NPTⅡ(RhB- NPTⅡ)を合成した。これを用いて蛍光相関分光(FCS)法に内包挙動を評価したところ、RhB- NPTⅡの拡散時間の増大が確認され、RhB- NPTⅡのポリマーベシクルへの内包が確認された。これらの結果から、酵素のPICsomeへの内包に成功したと考えられる。次に、NPTⅡのポリマーベシクル中での活性をキナーゼ活性測定キットを用いて評価した。NPTⅡが活性を維持していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アニオン性のポリエチレングリコールとペプチドのブロック共重合体とカチオン性ペプチドが静電相互作用により、150 nm程度の中空の球状集合体(ポリイオンコンプレックスベシクル)を形成することを見出した。一方で、両方のペプチドがポリエチレングリコール鎖を有していた場合には、非常に大きな集合体が形成した。これはポリマーベシクル膜内のポリエチレングリコール層でのポリエチレングリコール鎖同士の立体反発が大きいためだと考えられる。これら知見は、コイルドコイル形成ペプチドからなる球状の集合体を設計、形成させる上で、非常に重要になると考えられる。また、そのポリマーベシクル内部にタンパク質を内包できることも明らかにした。ポリマーベシクルへの蛋白質の内包が電気泳動法による定量および蛍光ラベルを施すことによって蛍光相関分光法(FCS)による解析により明らかになった。この結果よりタンパク質のポリマーベシクルへの内包挙動の解析手法を確立したと考えている。また、内包したタンパク質(ネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼ Ⅱ)がポリマーベシクル内で活性を保持しているか、基質にカナマイシンおよびアデノシン三リン酸(ATP)を用いた活性試験により評価した。この活性試験により、酵素がベシクル内部で酵素活性を維持していることが明らかとなった。また、このベシクルの表面に、ペプチドを修飾可能であり、それにより植物に送達する手法も確立した。これらのことから、新規のポリマーベシクルの集合挙動およびゲスト分子の内包挙動、内部の酵素の活性の評価方法が確立できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
コイルドコイル形成ペプチドからなるポリイオンコンプレックスベシクルを構築させるために。PEGを有するコイルドコイル形成ペプチドPEG-EIEALEKEIAALEKEIAALEK及びKIKALKEKIAALKEKIAALKE-PEG-C を用いる。これらのペプチドは固相合成法を用いて合成する。また、内部に配向することが期待される短鎖のPEG の末端には、His-tag タンパク質と相互作用する配位子Ni-NTA を修飾する。末端のチオール基をマイケル付加によりMaleimido-C3-NTA と反応させ、末端にNTA を修飾する。これらのブロック共重合体をそれぞれ水に溶解させる。それらの水溶液を1:1 で混合させることで、ポリマーベシクル(PV) を構築させる。まず、混合溶液の円二色性(CD)スペクトルによりコイルドコイルが形成しているか評価する。PV の形成は動的光散乱(DLS)測定、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察により確認する。また、ζ-電位を測定し、NTA が表面に提示されていないことを確認する。内包するタンパク質は蛍光タンパク質シトリン、及びモデル酵素として西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いる。His-tag 付きタンパク質存在下でブロック共重合体を混合させ、PV 内にタンパク質を内包させる。蛍光相関分光法により内包されているか確認を行う。電気泳動後の銀染色により内包率を算出する。内包されていれば、PV 内部のHRP の活性評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は研究計画にあったHPLC分取用カラム(約40万円)、動的光散乱用セル(約20万円)および減圧ポンプ(約20万円)を購入しなかった。その理由として、研究場所が2020年度に変更になることが決定しており、前研究場所で購入を行うと移設が大変であったため購入しなかった。そのため、2020年度に繰り越した予算でこれらの部品を購入する予定である。
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