研究課題/領域番号 |
19K15645
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
牛丸 和乗 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (10770703)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リグニンスルホン酸 / ε-ポリ-L-リジン / イオン相互作用 / 接着剤 |
研究実績の概要 |
本研究では木質由来の成分であるリグニンの有効活用を目指し、工業生産されているリグニン化合物の一種であるリグニンスルホン酸を用いた材料の開発に取り組む。具体的には、アニオン性高分子であるリグニンスルホン酸と種々のカチオン性高分子をイオン結合により複合化することで、リグニン化合物由来の高強度・高耐久性エラストマーの開発を目指す。 当該年度は、リグニンスルホン酸/カチオン性高分子複合体(以下、イオン複合体)の力学物性の向上に向けた検討を行った。これまでの検討において、カチオン性高分子として微生物が生産する高分子化合物であるε-ポリ-L-リジン(ε-PL)を用いることで、高い強度、タフネスを有するイオン複合体が得られることを見出している。本年度はこのε-PL由来のイオン複合体を中心に、技術の深掘りを目指して更なる物性データの収集を進め、学術論文にまとめた。 加えて、イオン複合体の利用技術の一例として、接着剤への適用を検討した。様々な基材をイオン複合体で接着して引張せん断接着強度を測定したところ、木材や金属のような極性材料に対して高い接着能を示すことを見出した。一方で、ポリプロピレンのような極性の低い基材に対しては接着能が低く、これらの接着試験の結果や試験後のサンプルの観察結果を鑑みるに、極性官能基間での強い相互作用が高い接着強度をもたらすものと示唆された。特に木材を基材とした場合には、市販の酢酸ビニル系木工用ボンドを上回るせん断接着強度を示し、本イオン複合体の接着剤としての有用性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度はカチオン性高分子としてε-PLを用いたイオン複合体の評価を進め、イオン複合体の強度・タフネスの向上に成功した。また、ε-PLは糖やアミノ酸を原料とした微生物プロセスで生産されるバイオベース高分子であるため、木質由来のリグニンスルホン酸と複合化することで、イオン複合体の完全バイオベース化も同時に達成した。 また、本イオン複合体は成形体としての利用だけでなく、極性材料の接着剤としても有用であることを確認できた。 上記の成果は論文発表も行っており、イオン複合体の「物性の向上」と「利用技術の開発」という二つのアプローチで研究が順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、以下の二つを考えている。 ひとつめは、イオン複合体の力学物性および耐水性の向上である。特に後者の耐水性に関して現状のイオン複合体では、原料が水溶性の高いイオン性高分子であるが故に、吸湿性や水中での安定性に改善の余地がある。本イオン複合体を構造材料として用いるためには、耐水性の向上は重要な課題であり、原料の最適化や添加剤などを用いた改質を進める。 また、ふたつめの方針として、前年度に検討した接着剤としての利用などの用途開拓、特に原料のイオン性高分子が有する特有の機能を生かした応用技術の開発にも取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、材料の合成よりも、詳細な物性評価や用途開拓を中心に研究を推進したため、試薬などの消耗品購入をあまり行うことなく研究が進捗した。 また、年度末はコロナウイルスの影響を受けて複数の学会が中止となり、その旅費分を翌年度に持ち越した。 次年度はこれらの繰り越し分を活用して、新たな材料の合成や成果発表を効果的に推進する予定である。
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