本研究では木質資源の有効活用を目的として、木質由来の化合物であるリグニンスルホン酸(LS)を用いた材料の開発に取り組んだ。具体的には、アニオン性高分子であるLSと種々のカチオン性高分子をイオン結合を介して複合化することで、高強度・高耐久性エラストマーの開発を進めた。 当該年度は、昨年度に見出した「カチオン性高分子と還元糖のメイラード反応による架橋」を生かし、LSとカチオン性高分子から成るイオン複合体に共有結合を介した架橋構造を導入することで、力学物性・耐水性の向上を試みた。LS/カチオン性高分子/還元糖の三成分を混合した水溶液から、約1mm程度の厚さを有するキャストシートを調製した。この複合体の引張試験を実施したところ、還元糖の添加によりイオン複合体の強度・ヤング率は向上する一方で破断伸びは低下、すなわち複合体が硬質化することを確認した。また、 還元糖の種類や添加量を変えた複合体を調製し、引張試験によって力学物性を評価した結果、最適な組成では糖未添加の複合体と比べて、強度13.1倍、ヤング率18.3倍と劇的な物性向上が可能であることを見出した。このイオン複合体(LS/ε-ポリリジン/還元糖)の破断強度とヤング率(55 MPa、2800 MPa)は、一部のスーパーエンプラ(PSS:45-80 MPa、2800 MPa)に匹敵する物性値であった。また、この複合体の原料であるLS、ε-ポリリジン、還元糖は植物および微生物由来の化合物であり、いずれもバイオベースの原料から調製可能なため、本イオン複合体は完全バイオベースのスーパーエンプラ級樹脂としての活用が期待できる。また、還元糖を添加していないイオン複合体は、原料が高極性・水溶性の分子であるため水中で容易に崩壊するが、還元糖の添加により共有結合を介した架橋を導入することで、イオン複合体の耐水性も向上することを明らかにした。
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