本研究では有機近赤外フォトディテクター材料の開発を目的として、電子受容性の高い縮環キノイドである、アセンジカルコゲノフェンジオンをアクセプター部位として用いた新規ドナーアクセプター分子の設計・合成・評価を行った。 まず、ベンゾ-および、ナフト-ジチオフェンジオンの両端にチオフェン、ビチオフェン、ターチオフェンを連結させたD-A-D型分子を合成したところ、末端チオフェンの数が増えるにしたがって、最大吸収波長が可視領域から近赤外領域へと大きくレッドシフトし、吸収端波長は1050 nmに及んだ。また、薄膜において、吸収端波長は最長で約1800 nm(0.7 eV)と極めて小さな光学バンドギャップを示した。この極めて小さい光学バンドギャップにもかかわらず、いずれの半導体分子もHOMO/LUMO準位がおよそ-4.0 eVと-5.0 eVを下回り、これらを活性層に用いた有機電界効果トランジスタは大気安定な電子およびホール輸送を示し、キャリア移動度が0.01 cm2/Vsを上回る良好な半導体材料であることが明らかにした。また、アクセプター骨格中の硫黄原子を酸素およびセレンに置換することで、電子構造、および骨格の平面性や剛直性を制御し、吸収の長波長化、および電荷輸送特性の向上(>0.1 cm2/Vs)を達成した。 これら一連の半導体分子の電子構造を量子化学計算によって詳細に調べたところ、本キノイドアクセプター骨格はD-A-D型分子において、分子内電荷移動により、中央のキノイド6員環構造が芳香族性を獲得できることから、分子内電荷移動が促進され、吸収の長波長化を引き起こすと考えられる。以上の結果から、本研究で開発した縮環キノイド骨格が近赤外吸収有機半導体の設計における有望なビルディングユニットであることを明らかにした。
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