研究実績の概要 |
フォトクロミック反応など光異性化反応においては、順反応と逆反応は相補的な関係にあるため、独立した制御は困難である。本研究では、歪みの調節が可能なモチーフとして湾曲状芳香族構造、フォトクロミック反応モチーフとしてヘキサトリエン構造を有する化合物を合成し、これらを用いて、分子の静的・動的な歪み構造に注目してポテンシャルエネルギー曲線をスイッチさせ、光物性・反応性に与える効果を系統的に評価・検討することで、光反応における順反応と逆反応の独立な制御を目指した。 湾曲状芳香族分子コラニュレンとターアリーレン型ヘキサトリエンの組み合わせにより湾曲状歪み構造を有する新規有機フォトクロミック分子を設計・合成した。1,2,7,8-テトラブロモコラニュレンを5-アリール-2-メチルチオフェンボロン酸ピナコールエステルと鈴木・宮浦カップリングすることで、2つのターアリーレンユニットを有する化合物が得られた。また、5-アリール-2,4-ジメチルチオフェンボロン酸ピナコールエステルを用いると、この誘導体が得られた。これらの化合物を溶液中で光照射し、各種分光分析を行うことで、紫外光で光閉環反応、可視光で光開環反応することによるフォトクロミズムを示すことを明らかにした。さらに、平面状芳香族骨格を用いた対照化合物を合成し、光物性および光反応性を比較することで、湾曲状骨格がフォトクロミック反応効率を向上させることを明らかにした。このフォトクロミズムにおいて、湾曲状芳香族骨格に由来する大きなモル吸光係数と反応量子収率による高い光反応効率を実現した。
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