研究課題/領域番号 |
19K15650
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
森 裕樹 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 助教 (20723414)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 有機半導体 / n型半導体 / π共役系分子 / 非フラーレンアクセプター |
研究実績の概要 |
次世代の再生可能エネルギーとして期待される有機薄膜太陽電池(OPV)は、フラーレン誘導体に代わる新たな n 型半導体の開発により、変換効率が飛躍的に向上している。しかしながら、OPVの実用化に向けてさらなる高効率化を達成するためには、より高性能なn型半導体を開発することが極めて重要な課題である。本研究では、これまでに研究代表者が独自に開発してきたFBTzEと呼ばれる多環芳香族骨格を中心アクセプター骨格(A1)とし、これをドナー(D)および異なるアクセプター(A2)と連結した高結晶性の新規A2-D-A1-D-A2型n型半導体FBTzE4T-IC-ODを開発してきた。 今回、新たにこの新規n型半導体を市販のp型ポリマーと組み合わせたOPVを作製したところ、約1%と低い変換効率を示した。これは、非常に長鎖かつかさ高い可溶性側鎖を複数導入しても溶解性が著しく低く、p型ポリマーと混合するとn型半導体が過度に結晶化したことに起因する。これらの結果より、単に結晶性を高めるのみでは、分子のπ平面が直線状となることでラメラ構造を形成しやすくなり、溶解性が著しく低下することが分かった。そのため、高性能n型半導体の開発には、高い溶解性と結晶性という相反する特長を両立する新たな分子設計を確立する必要がある。本研究成果は、現在論文として執筆中である。 そこで高い溶解性と結晶性を両立する新たなn型半導体として、FBTzEに連結するドナーユニットにジチエノピラン骨格を用いた分子を設計した。これにより、分子全体がN字状となるほか、このN字の屈曲部に直交する可溶性側鎖を導入することで溶解性を高めつつ、この可溶性側鎖部を避けるように末端部位同士、あるいは末端と中心骨格の相互作用を可能とすることで結晶性を保持することが可能となる。現段階において、この目標とする分子の合成に着手しており、前駆体までの合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに合成に成功していた目的のn型半導体であるFBTzE4T-IC-ODを、今回に新たにOPVに応用することで詳細な構造-特性相関を解明することに成功した。これにより、単に結晶性を高めるだけの設計指針ではn型半導体の過度な凝集を促進するため、低い変換効率を示すことが分かった。これらの結果は当初の予想とは異なるものの、高性能なn型半導体を開発するための極めて重要な知見が得られた。現在、得られた知見を基に高い溶解性と結晶性を両立する新たなn型半導体の開発に着手しており、その合成法が確立できつつあることから早急に目的化合物の合成が期待できる。また、OPVへと応用するために組み合わせる既存のp型半導体は研究代表者らが開発したポリマーを含め数種類を確保しているため、合成したn型半導体をOPVへスムーズに応用することが可能である。そのため、現在までの研究はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまでに得られた知見から新たに設計した新規n型半導体の合成を完了する。その後、得られた新規n型半導体のエネルギーレベルや熱安定性などの基礎物理化学特性の調査をおこなう。その後、既存のp型半導体と組み合わせた太陽電池へと応用し、その特性を評価する。また、実際の太陽電池素子を用いて、p型およびn型半導体を混合した状態での薄膜構造を調査し、太陽電池特性と薄膜構造との相関を明らかとする。得られた構造-特性相関を基に分子設計のフィードバックを行い、さらなる特性の改善を目指す。 具体的には、FBTzE骨格に連結するジチエノピラン骨格は非対称分子であるため、連結する位置を変えることでN字型構造を維持しつつ、直交する可溶性側鎖の位置を変えることが可能である。これにより、可溶性側鎖の置換位置によって結晶性やそのパッキング構造、OPV特性にどのような影響を及ぼすかを系統的に調査できる。これにより、高性能材料の開発のみならず、分子設計に関する知見をより深めることが可能となる。このほか、得られた構造-特性相関を基に、末端アクセプター部位や中心FBTzE骨格の分子修飾により、n型半導体の吸収領域とエネルギーレベルの調整のほか、可溶性側鎖の長さや形状の最適化を経て、目標とする15%の変換効率を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型コロナウイルスの影響が解消されなかったため、参加予定であった5月開催の高分子年次大会が中止となったほか、参加した高分子討論会や応用物理学会春季学術講演会などのすべての学会がオンライン開催となったことにより、当初予定していた旅費が不要となった。現段階でもコロナウイルスの影響は収束する様子は見られないため、これらの経費は次年度で必要となる化合物の合成に必要な薬品や消耗品のほか、化合物同定に係る分析のための費用として使用する予定である。
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