研究実績の概要 |
ハライド系ペロブスカイトは優れた光物性を有し、大気中で溶液法を用いた成膜が可能というメリットがある。そのため、発光素子への応用に向けた研究が活発に行われているが、解決すべき課題も山積している。その一つは、優れた特性を示す物質系が有毒元素である鉛系に限定されているので、非鉛系で優れた特性をもつ物質の創出である。申請者は、2018年にCu+の2量体が発光サイトとなる鉛フリーの青色発光体Cs3Cu2I5を報告した。この物質は、発光サイトが結晶構造内で量子ドットのように0次元の電子状態をもつので、極めて高い蛍光量子効率PLQY(~90%)を示し,実用的な青色発光材料として関心を集めている(Advanced Materialsに掲載。被引用数61回)。もう一つの課題は高効率LEDの実現である。これまでは、高いPLQYを示す低次元ハライド物質が専ら研究されてきたが、LEDの効率は低いままであった。これはLEDのような電流駆動素子には、電極から発光層への正孔と電子の輸送が加わるので、優れたキャリアの輸送特性が要求されるからである。申請者は、単独では低PLQYだが輸送特性に優れた3次元ハライド半導体を発光層とし、それに隣接する電子・正孔輸送層にバンド端の位置を大幅に制御できる透明アモルファス酸化物半導体(所属する研究室はその世界的メッカ)を採用すれば、発光層内に励起子の閉じ込めが可能になり、高い電流効率が実現可能と発想した。このアイディアで、駆動電圧3Vで100,000cd/m2という世界トップのEL(緑)素子を実現した。その成果はAppl. Phys. Rev.(2019)にハイライト論文に選出され、日経エレクトロニクス誌に「"光るペロブスカイト"が覚醒 -アモルファス酸化物がLEDとして"失われた10年"を打破」としてホットトピックスに取り上げられた。しかし、毒元素である鉛が使われていることが今後の課題となる。今後は毒元素フリーの新たな発光体を探索し、より優れたLEDの開発に挑む。
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