マイクログリッドの構築に向けて、高エネルギー密度かつ低コストの蓄電池が求められている。本研究では、高容量化につながるアニオンレドックスの大きな構造変化に伴う充放電特性の低下を、アモルファス化によって抑制することに成功した。構造データベースから、多電子レドックス・高Na拡散性・ガラス形成領域等の観点から、Na3FeS3の組成に注目した。XRD測定とRaman分光測定から、結晶型Na3FeS3はデータベース上の単斜晶系を有し、アモルファス型は類似の局所構造を有するアモルファス構造が得られていることが分かった。充放電特性では室温作動し、アモルファス型が結晶型よりも高い可逆容量 (162 mAh g-1) を示した。どちらのプロファイルもモデルより計算された電位プロファイルと一致し、アモルファス型ではスロープ、結晶型では単一のプラトーが見られた。このことからアモルファス化によって、二相共存反応から固溶反応に充放電反応が変化したことが分かった。充放電後のセルの抵抗解析から、アモルファス型は結晶型よりも電極由来の抵抗 (電荷移動および拡散) が小さいことが示された。充放電過程の計算モデルより、結晶性の二相共存反応に伴う急激な構造変化がアモルファス化によって抑制されていることが示されており、これが電荷移動抵抗の低下につながったと考えられる。また、分子動力学計算より、アモルファス化によって結晶型では見られないランダムな伝導経路ができており、これが拡散性の向上につながったことが分かった。アモルファス型のワールブルグ係数より算出された拡散係数 (2.5×10^-10 cm2 s-1) は結晶型に加えて、Liイオン電池やNaイオン電池の代表的な正極材料よりも高い値であった。以上から、高速なアニオンレドックスの実現のために、アモルファス化が有効な1つの手段であるが示唆された。
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