研究課題/領域番号 |
19K15658
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
田港 聡 三重大学, 工学研究科, 助教 (60771201)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リチウム二次電池 / 正極材料 / 薄膜 / 固体電解質 / 反応解析 / パルスレーザー堆積法 |
研究実績の概要 |
本研究では,固体界面を利用して複数当量のLi+を可逆的に脱挿入させるリチウム二次電池正極反応を見出すため,モデル積層膜合成により酸化物固体電解質とLi5FeO4との固体界面を構築して正極反応を検討する.2019年度においては,パルスレーザー堆積法(PLD法)を用いてLi5FeO4薄膜の合成を検討し,相同定および電気化学特性を評価した.また,固体電解質薄膜の合成と評価も行った.Li5FeO4薄膜の合成は,既報のLiCoO2,LiMn2O4薄膜などリチウム含有遷移金属酸化物の条件を参考にした.電子顕微鏡観察から,固体電解質の積層によるモデル固体界面構築のために十分な平滑性を有する薄膜であることを明らかにした.また充放電試験による電気化学特性評価より,既報の多結晶粉末電極と類似した放電曲線を示すことが分かった.一方でLiFeO2相の存在を確認し,合成過程でLiが欠損していることが示唆された.酸化物固体電解質については,リン酸塩系の材料を検討した.電子顕微鏡および光電子分光による構造評価より,平滑な表面と深さ方向に一様な組成分布を有する薄膜であることを確認した.膜厚はおよそ1.5 um程度であることを確認し,モデル固体界面を構築するために十分な膜厚を有するリン酸系固体電解質薄膜の合成条件を確立した. 今後は,Li5FeO4の合成過程におけるLi欠損が示唆されたため,抑制する合成条件を検討して単相合成を行い,本年度において確立したリン酸系固体電解質薄膜を積層し,正極反応を検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化物固体電解質とLi5FeO4の積層によるモデル固体界面構築によるLi5FeO4の高容量正極反応の検討に向けて,以下に示す成果がそれぞれ挙がっている.そのため,これまでの研究は概ね順調に進展していると言える. Li5FeO4モデル薄膜電極の合成:モデル固体界面構築のために十分な平滑を有する薄膜であることを明らかにした.また電気化学特性の評価から,既報の多結晶粉末電極と類似した放電曲線を示すことが分かった.一方でX線回折測定からLiFeO2の形成が確認されたため,合成過程でLi欠損を改善して積層膜の構築へと展開することが今後の課題である. リン酸系固体電解質薄膜の合成:平滑な表面と深さ方向に一様な組成分布を有し,膜厚がおよそ1.5 um程度であるリン酸系固体電解質薄膜の合成条件を確立した.積層時における固体界面の状態と電気化学特性の相関を検討するため,膜厚と製膜時間の関係を明らかにする必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度において,不純物を含むもののLi5FeO4の形成が示唆され,またリン酸系の固体電解質薄膜の合成条件を確立した.次年度以降,Li欠損を改善するために室温下における蒸着とポストアニールやLi過剰なPLD用ターゲットを使用することで,Li5FeO4薄膜合成条件を最適化する.リン酸系固体電解質薄膜を積層して電気化学特性を検討する.特に,単層膜と比べて放電時の可逆的特性や,サイクル特性に着目して正極反応を解析する.物理化学的な手法からも固体電解質積層前後の正極反応を解析して,固体界面構築前後の反応機構の検討に注力する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は不活性雰囲気下での試料保管や測定のためのグローブボックス導入,合成試料の組成分析の委託などに予算を使用した.PLD装置の一部改良と合成条件や再利用に関する工夫により,薄膜作製の効率が向上した.また,PLD装置部品の破損が無かった.以上の理由から,薄膜堆積用基板,PLD装置消耗品にかかる費用が減少し,一部残額が生じた.2020年度は堆積用基板や組成分析の費用に繰り越して使用する.
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