研究課題/領域番号 |
19K15661
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
竹入 史隆 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 助教 (20824080)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヒドリド / 酸水素化物 / ペロブスカイト / 誘電率 / イオン導電 |
研究実績の概要 |
酸化物中のヒドリドは、そのサイズ柔軟性のため、通常の酸化物では見られない異方的な圧力応答や配位状態を生み出す。本研究ではそのような酸水素化物の特異性を構造物性、特に誘電性の観点から調べる。具体的には、d0遷移金属酸水素化物をターゲットとし、(1)単純ペロブスカイトAScO2H (A = Ba, Sr) および(2)層状ペロブスカイトBa2YHO3 の合成と物性測定をおこなった。 (1)既知物質であるBaScO2Hのペレットを作成し、その誘電率を測定した。その結果、100-300Kにおいて50程度の比誘電率が得られ、その周波数依存性がほとんど見られないことが明らかとなった。300K以上の温度では漏れ電流に起因すると考えられる大きな誘電正接が見られた。また、高圧合成法を用いることで、新物質SrScO2Hの合成に成功した。現時点では不純物が多く含まれており、焼結体での試料回収が難しいこともあって、物性測定には至っていない。 (2)イットリウムを含む酸水素化物の物質探索を実施したところ、新規物質Ba2YHO3の合成に成功した。予備実験としてその電気抵抗率を測定したところ、予想に反して、優れたヒドリドイオン導電特性が観測された。その導電率は350℃以上で 1 mS/cmを超え、類似物質の中でも高水準に位置する。その価値を考慮し、当初の目的とは異なるが、本物質はヒドリドイオン導電体としての評価を進めることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、ターゲットとしている酸水素化物の焼結体作成とその誘電率測定の実施を目標としていた。試料の調整に時間はかかったものの、BaScO2Hにおける誘電率データ取得に成功した。SrScO2Hについては試料の純良化が難しく、焼結体も得られていないため、物性測定に至っていない。一方、当初の研究構想からは外れるものの、優れた特性を示すヒドリドイオン導電体Ba2YHO3を発見できたことは大きな成果である。以上を総合的に判断し、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きSrScO2Hの純良化と焼結体の作成に取り組み、その構造物性データの取得を目指す。これまで試料調整には所属機関の高圧合成装置(最大4GPa)を用いていたが、共同研究先が保有する10GPa級の装置を使用する予定である。また、単純ペロブスカイトAScO2Hにおいては、低温での構造相転移が予想されている。その実態を放射光エックス線回折実験によって明らかにし、誘電率との相関について知見を得たい。偶然得られたヒドリドイオン導電体については、適切な元素置換によってさらなる特性向上を図る。
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