本年度は,新型コロナウィルス・退職に伴い半月ほどの研究期間であった。昨年の研究の続きとして,①柔軟性MOFsの熱吸収機構の解明,②自己熱吸収するMOFsの合成・探索を試みた。 項目①では,柔軟性MOFs:ZIF-8において,吸着に伴う発熱量が粒子径の減少に伴い低下することが微分吸着熱測定より明らかになった。VOCsのモデルとして,極性分子のエタノールおよび非極性分子のn-ヘキサンを用いて行った熱量測定の両者で,小さな粒子径のZIF-8が低い吸着熱を示す。これは粒子表面の結晶格子において隣接する格子が存在しないため,バルク結晶格子に比べ貯蔵する分子を安定する能力が低いことに由来すると考えられる。この予測に基づき算出した表面結晶相の厚みは,シミュレーションによって予測された結果と概ね一致し,表面結晶相が低い吸着熱を示す事を示唆している。またこの効果は,表面結晶格子を構成する2-メチルイミダゾールにも働き,バルク結晶と異なる分子運動性を示す事が予想され,表面結晶格子を形成する2-メチルイミダゾールの運動性がバルク結晶格子の場合と異なることを示唆している。 項目②では,地球温暖化など多様な目的で分離が望まれるCO2分離を可能とする柔軟性MOFs:ZIF-7の吸着熱特性評価およびそのリガンドを一部ZIF-8の2-メチルイミダゾールに置換した新たなMOFs:ZIF-7/8の合成を試みた。ZIF-7では,急激にCO2を貯蔵する圧力範囲で,吸着熱が低下することを確認し,MOFsの構造変化により吸着熱が吸収されることが示唆された。またZIF-7/8では,ZIF-7同様の圧力範囲でZIF-7に比べ1.5倍以上の高いCO2貯蔵量を確認した。この結果は,部分的な構造置換により,集積型金属錯体の結晶格子に柔軟性が付与され,貯蔵空間が拡張したことを示唆している。
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