研究課題/領域番号 |
19K15680
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
稲本 純一 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (20816087)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 正極活物質 / 表面状態 / 劣化解析 |
研究実績の概要 |
次世代リチウムイオン電池用にはLiNi0.5Mn1.5O4(LNMO)などの高エネルギー密度正極活物質が期待されている。LNMOは高い充放電電位が長所であるが、高電位では電解液が激しく酸化分解することが指摘されている。このような酸化分解生成物は活物質上に被膜を形成し反応抵抗の増大などの劣化や以後の界面副反応に影響を与える可能性があるが、その被膜形成挙動やその電極特性への影響は従来不明確であった。本研究ではこれらの高エネルギー密度正極活物質の表面域で起こる劣化現象を明らかにすることを目的とし、薄膜電極を作製して充放電サイクル前後での表面状態変化を分光分析と電気化学的分析を組み合わせることで解析を行った。 本年度ではまずパルスレーザーデポジション法によるLNMO薄膜の作製条件の最適化を行った。その結果、既報のLNMO粉末のX線回折パターンおよび充放電特性と同様の挙動を示すLNMO薄膜が作製でき、モデル電極として適していることが明らかとなった。室温下と比較して高温下では充放電容量のサイクル劣化が大きいことが認められた。室温下でのサイクル前後での電極上での金属錯体のレドックス反応活性の変化から被膜形成の有無を調べたところ、LNMOは不働態化されないことが明らかとなった。X線光電子分光(XPS)による表面化学種分析においても電解液の分解生成物は存在せず、被膜が形成されないことが示唆された。高温下でのサイクルでも同様に被膜形成は起こらず、加えて活物質中の遷移金属イオンの溶出が顕著であった。このことから特に高温下では被膜が形成されないためLNMOが常に電解液に曝されており、電解液への遷移金属イオンの溶出などが抑制されることなく進行することでサイクル劣化が急速に進行したことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画してた研究内容はおおむね達成されており、LNMOの表面域で起こる劣化現象についてその要因を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
安定な被膜が形成されないためにLNMOでは高温で遷移金属イオンの溶出反応が顕著に起こったことが示唆されたが、これをより詳しく調べるために遷移金属酸化物などによる表面修飾や被膜形成添加剤などによりLNMO表面に安定な被膜を形成させて同様の解析を行い、表面劣化現象に与える影響を調べることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に購入を検討していたX線光電子分光測定用トランスファーベッセルについて要否を再検討したところ、研究遂行のための必須であるとまでは言えず、さらに高額であることから本年度は購入せず、必要に応じて次年度以降に購入を再考することに変更した。また電気化学セルの製作においても当初は外注により特殊セルの設計から作製まで依頼をするつもりであり予算を大きく計上していたが、自身で設計図を書いて学内の工作課で内製することで当初計画よりもかなり低コストで作製ができた。 次年度はパルスレーザー堆積装置のオーバーホールを当初より予定しているが、装置の調子によっては更に追加で費用が必要になる虞もあることから、このような場合には本年度分の繰越予算を用いて対応する。また研究遂行に必須であるグローブボックスが現在不調であるため、これの修繕にも繰越予算を用いて対応する予定である。
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