研究課題/領域番号 |
19K15684
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研究機関 | 鶴岡工業高等専門学校 |
研究代表者 |
伊藤 滋啓 鶴岡工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (20707806)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SOFC / アノード / 助触媒 / フレンケル欠陥 / 活性サイト |
研究実績の概要 |
今回の若手研究の助成を受けたことにより研究・実験を進めた結果、本研究の目標である「高性能化(既存の性能の10倍以上)と高い安定性を両立した革新的高発電性能SOFCデバイスの創成」の内の前者の性能向上については数値として現段階では中温作動領域の700℃の作動温度で約5倍の性能向上を示した。また、後者である高い安定性という部分は達成できたと考えられる。具体的には通常のSOFC単セル(アノード:Ni-8YSZ;重量比4:1,カソード:LSM,電解質8YSZペレット)と比較して、当研究者がオリジナルに開発したBM助触媒を添加したアノードを用いたSOFC単セルは300時間の長期安定性試験で約3倍の安定性を示した。また、電極性能向上に起因するフレンケル欠陥会合クラスター(活性サイト)の生成の考察を進めるために申請書内に記載したXPS測定と欠陥構造シミュレーションを組み合わせて行ったことで、アノード層内のZrO2表面に添加したBM助触媒が活性サイトを形成していることが示唆された。これらの結果をまとめて論文にまとめ、国際学会での招待講演で口頭発表1件、国内学会で口頭発表6件行うことができ、本助成を受けたことによって本研究を益々加速させることができた。本研究の結果はSOFCの研究分野においてこれまでセオリーとされていた性能向上にはカソード、電解質の改良に注目が集まっていたが、そこに埋もれた盲点に焦点を当てた、アノードの改善という常識に埋もれた問題点、ファクターをあぶり出した。この発見は燃料電池分野研究における大きな前進であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
性能評価に関する実験結果は電流遮断法を用いた電極性能評価の結果を軸に、以下のように考察した。SOFCのアノード層内のZrO2表面にBM助触媒を添加することで活性サイトが形成され、ZrO2表面ではアノード反応の内律速である酸化物イオンが移動していると第一原理計算を用いたシミュレーション研究で明らかとされおり、BM添加による活性サイトがZrO2表面に形成されることで酸化物イオン伝導が高速に移動し、その結果、アノード反応を活性化し性能向上に貢献したと考えられた。この考察は電極性能の評価に加え、XPS測定によるZr3dとO1sのピーク変化・シフトの変化をBM添加試料と無添加の試料を比較し、また、ソースコード:GULPを用いた欠陥構造シミュレーションによるZrO2表面におけるクラスターの生成をシミュレーションすることで示唆された。次にBM添加による長期安定性効果に関しての実験結果は50時間ごとに電極性能を測定・評価し、その性能の低下度合いをBM助触媒添加、無添加試料で比較した。BM助触媒を添加したSOFC単セルは、無添加の標準単セルと比較にて電極性の能低下が約1/3に抑えることが出来た。この結果を考察するために300時間後のセルをSEM観察によってアノード層内の粒度分布をインターセクション法を用いて評価した。その結果、BM助触媒添加によってアノード層内の粒度分布は全体的に無添加標準セルの結果と比較し、小さい粒子径に分布していた。これはBM助触媒が添加されることでアノード層内の粒子の粒成長が抑制されているということを意味しており、700℃の作動温度から抑制された粒子はNi粒子と考えられ、Niの熱膨張を抑制し、燃料であるH2ガスの供給経路をBM助触媒がピンニング効果を示した故であると考察された。これらの結果と考察を踏まえ、現在の進捗状況はおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の取り組み内の「アノード層内における飛躍的フレンケル欠陥会合クラスター数増加と電極及び電池性能向上」で、アノード層へのBM微量添加後、低酸素分圧領域(10-2から10-5 atm)においてアノード焼付けを行い、アノード層内界面に酸素欠陥を多量に生成させ、フレンケル欠陥会合クラスターの数を現状の3倍に増やすことを試みたが、電極性能の向上の結果は得られなかった。この理由としてZrO2表面上に形成されるフレンケル欠陥会合クラスターとは別に低酸素分圧領域で1300℃焼き付け処理を行うことで酸素欠陥が多量に生成した可能性が示唆される。その酸素欠陥が起因し、ZrO2の欠陥構造が希土類c型類似の構造になり、ZrO2表面の酸化物イオン伝導に関する特性を大幅に低減させ、電極性能向上にはつながらなかった。 この結果を踏まえ、低酸素分圧領域での焼き付けは飛躍的フレンケル欠陥会合クラスター数増加には不適当と考え、別案を以下に提案する。本研究の着想に至る前に共同研究者の研究で「SOFCアノード層にPtOxの蒸着による反応活性サイトの形成」といった研究があり電極性能向上に成功している。この研究をベースにBM添加によって形成される欠陥クラスターの構成欠陥である、ZnOxもしくはInOxの酸化物スパッタを行い、より多くの活性サイトを形成し電極性能のさらなる向上を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
Pt関連資料の値段変動に伴う誤差により、使用額に誤差が生じた。本年度はこの誤差文を含め実験実施に必要な試薬、白金備品を中心に使用する予定である。
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