研究課題/領域番号 |
19K15689
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
加藤 南 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究員 (50783643)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機二次電池 / 導電性高分子 / 酸化還元 / 二次電池 / 電極活物質 / 水系バインダー |
研究実績の概要 |
二次電池の高性能化のため、電極活物質として有機化合物が期待されているが、現行の電極活物質の性能を超える有機材料は未だに報告されていない。これまで高容量が見込めるキノン系の材料が注目されてきたが、これらの作動電圧は現行の正極活物質に比べ低く、低分子量の場合は、充放電中の容量劣化が課題となっていた。更に、多くの有機活物質は性能を引き出すために電極中に過剰量の導電助材を必要とするため電極全体当たりでの容量が低いことも課題であった。本研究では、高電圧作動が期待できるアニオン移動型有機硫黄正極材料の利用に加え、導電性高分子材料の利用により有機活物質を含む電極の充放電中の容量劣化と電極あたりの低容量密度という課題を解決すること目指す。 本年度は、計画通り既知化合物を用いた導電性高分子との組み合わせ手法の検討を行った。例えば活物質として用いベンゾキノンとテトラチアフルバレンが縮合したQTTFQを合成し、導電性高分子PEDOT/PSSを主成分とする導電性バインダーと組み合わせた電極の性能を明らかにした。活物質割合が8割の電極において、導電助材(アセチレンブラック )とバインダー(PTFEまたはPVdF)で構成された従来の電極に比べ、導電性バインダーとして糖アルコールを含むPEDOT/PSSバインダーを使用した電極は、優れた初期特性を示した。更にセパレーターとして導電性高分子材料を塗工したガラスフィルターの使用が、それぞれの有機電極の充放電中の容量劣化を防ぐこともわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画通り、活物質として既知化合物であるQTTFQ、indigo、導電性高分子としてPEDOT/PSSを利用し、有機活物質の容量劣化と配合率の課題の解決に努めた。PEDOT/PSSに糖アルコール(sorbitol)を添加した材料を導電性バインダーとして利用することにより、電極の欠陥を防ぐことが出来ることを明らかとした。また、sorbitol添加されたPEDOT/PSSでコーティングされたガラスフィルターをセパレータとして用いることにより、容量劣化が改善された。これら2つを合わせて利用することで、低導電性の有機活物質を80wt%(通常50wt%以下)含む電極でも、高い容量を引き出すことができることを明らかにした。更に、アニオン移動型の負極材料として注目したビオロゲン誘導体の合成に成功し、アニオン移動型有機二次電池の高エネルギー密度化に向けた取り組みも行った。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目的通り、新規化合物の合成を進める。現在、新規化合物と類似の酸化還元ユニットを持つBBBTの電池特性の評価を行なっている。高電圧に耐えることのできる電解液を探索中である。BBBTは溶液CVで2電子酸化還元系であることを確認したが、電極にすると1電子分の容量しか得られていない。1電子目はリチウム基準に換算して4V付近、2電子目は4.5V付近で観測されると溶液CVより推測出来た。しかしながら、4.5V付近では電解液の分解なども起こるため、電解液の選択が難しい。従って、少し酸化還元電位を低下させることにより、電解液による問題を取り除くことでBBBT誘導体の2電子移動を電極でも再現することを確認する。電子供与基を挿入することにより、酸化還元電位を制御し、電極とした場合でも2電子移動するか検証する。これらの化合物が合成でき次第、高分子材料と複合させ電池特性の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算執行率は90%以上であり、概ね当初の計画通りであった。年度末開催予定の学会に参加するため旅費を計上していたが、正常に開催されなかったため使用しなかった。 次年度使用額は化合物の合成のための溶媒、試薬の購入や解析装置の使用料のために使用する。
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