研究課題
アミロイドβ(Aβ)の凝集体・Aβオリゴマーは、in vitro実験において高い細胞毒性が見出されたことから、アルツハイマー病発症の引き金を引く分子であると考えられている。しかしどのようにAβオリゴマーが病態に関連するのかを明らかにするための細胞・動物モデルは存在しない。Aβオリゴマーは、Aβモノマーの凝集体であるために、通常用いられるようなsiRNAなどを用いたタンパク質制御システムで量の増減を制御できない。そのため、任意の部位のAβオリゴマー量を増減する分子生物学的アプローチを開発する必要がある。本研究は、Aβオリゴマーの細胞毒性を調べる新規細胞・動物モデルの創出を目指し、Aβオリゴマーを選択的に分解するプロテアーゼに、Aβオリゴマー選択性を付与するための分子認識素子であるAβオリゴマー結合ペプチド(Oligomer-Binding Peptide; OBP)を融合させたOBP融合プロテアーゼを開発する。細胞の特定の部位にOBP融合プロテアーゼを発現させる事で、Aβオリゴマーを部位特異的に減少させた“Aβオリゴマーノックダウン細胞”を作製することで、Aβオリゴマーが神経変性能を発揮している部位の特定ができると考えた。本年度はAβの分解に関与する亜鉛メタロプロテアーゼであるネプリライシンにOBPを融合した「OBP融合ネプリライシン」のAβオリゴマー結合能の検討結果について報告する。これまでに開発したOBP融合酵素である、OBP融合アルカリホスファターゼの結合を確認できている実験条件と揃え、結合試験を実施したが、今年度結合を確認することはできなかった。前年度、OBP融合ネプリライシンにプロテアーゼ活性を見出している。この結果から、OBP融合ネプリライシンがAβオリゴマーに結合したとしても、Aβオリゴマーを分解してしまっており、結果OBP融合ネプリライシンが解離してしまうのではないかと考えられた。
3: やや遅れている
本年度はAβの分解に関与する亜鉛メタロプロテアーゼであるネプリライシンにOBPを融合した「OBP融合ネプリライシン」のAβオリゴマー結合能の検討結果について報告する。Aβオリゴマーをin vitroで調製し、OBP融合ネプリライシンの精製に用いたヒスチジンタグを認識するHRP修飾抗体を用いたドットブロッティングにより、OBP融合ネプリライシンの結合を確認した。結果、複数回試験を行なったが、いずれも結合は確認できなかった。実験条件は、これまでに開発したOBP融合酵素である、OBP融合アルカリホスファターゼの結合を確認できているものに揃えている。前年度に申請者は、OBP融合ネプリライシンは1 mgあたり15 nmolのAβを1分間で切る活性をもつことを示した。結合試験には2時間程度OBP融合ネプリライシンとAβオリゴマーが接触しうるため、結合したとしてもAβオリゴマーが分解され、OBP融合ネプリライシンが解離してしまうのではないかと考えられた。そこで市販活性測定試薬とネプリライシン阻害剤を用いて、OBP融合ネプリライシンの活性を阻害できる条件を検討し、見出した。今後、阻害剤添加条件にて再度結合試験を実施する。
ネプリライシンの酵素活性の阻害剤を添加した条件で、再度OBP融合ネプリライシンのAβオリゴマー結合能を評価する。もし活性阻害条件下でも結合が観察されなかった場合、OBPをネプリライシンの両末端に融合した酵素の構築、または他のAβ分解可能なプロテアーゼへのOBPへの融合を先に進める。なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響で海外輸入品の実験試薬の納品が遅れたため、次年度使用額が出た。次年度使用額は阻害剤など複数の生化学試薬の購入に充てる予定である。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で海外輸入品の実験試薬の納品が遅れたため、次年度使用額が出た。次年度使用額は阻害剤など複数の生化学試薬の購入に充てる予定である。
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