研究実績の概要 |
特定の標的分子に対して特異的に結合することのできる核酸アプタマーは分子標的薬として期待されている。しかし、天然のDNAやRNAで構成される核酸アプタマーは生体内で核酸分解酵素によって容易に分解されてしまう。そこで、核酸分解酵素耐性を有する人工核酸を用いることで、生体内でも安定的な効果を示すアプタマーを開発することができる。さらに、人工核酸の種類によって細胞膜透過性など様々な特性を付与することができるため、核酸アプタマーに適用可能な人工核酸の種類を拡張することは重要な課題である。核酸アプタマーの取得方法であるSELEX法では、核酸伸長酵素であるポリメラーゼによる転写・逆転写反応が必須であるが、通常のポリメラーゼでは人工核酸に対応できない。そのため人工核酸に対応可能な改変ポリメラーゼが必要である。 これまでに研究代表者は架橋型人工核酸である2′,4′-BNA/LNAを含むアプタマーを取得するために100種類以上の独自の改変ポリメラーゼを作製し、実際に人工核酸アプタマーの取得に成功している。そこで本研究では、改変ポリメラーゼを用いることで、人工核酸アプタマーに用いることのできる人工核酸の種類の拡張を目指した。 しかし、2′,4′-BNA/LNAよりも嵩高い種類の人工核酸の中には、これまでに開発してきた改変ポリメラーゼでは転写・逆転写反応の効率が不十分なものが見つかった。そこで、当該年度では新規改変ポリメラーゼの開発を実施した。その結果、非常に嵩高い人工核酸についても転写反応が可能な改変ポリメラーゼ、逆転写反応が可能な改変ポリメラーゼをそれぞれ開発することに成功した。嵩高い架橋型人工核酸は核酸分解酵素耐性が非常に高いため、より高性能な人工核酸を用いてSELEXを行うことが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで2′,4′-BNA/LNA以外に複数の架橋型人工核酸が開発されている。これらの架橋型人工核酸は、核酸分解酵素耐性が2′,4′-BNA/LNAと比べて非常に高く、機能的な官能基が付与されている。そのため、人工核酸アプタマーの素材として非常に魅力的である。しかし、これまでに研究代表者が開発してきた改変ポリメラーゼを用いてスクリーニングを実施した結果、転写・逆転写反応の効率が十分な改変ポリメラーゼが見つけられなかった。これは架橋部の官能基が2′,4′-BNA/LNAよりも嵩高く、天然の核酸との相違が非常に大きいためであると考えられる。そのため、当該年度は2′,4′-BNA/LNA以外の架橋型人工核酸に対応可能な新規改変ポリメラーゼの開発に取り組んだ。その結果、嵩高い架橋型人工核酸についても転写反応が可能な改変ポリメラーゼ、逆転写反応が可能な改変ポリメラーゼをそれぞれ開発することに成功した。 本研究課題では、これまでに人工核酸アプタマー開発に用いることのできる人工核酸の種類を増やすことに成功している。人工核酸の種類によって最適な改変ポリメラーゼの種類は異なっており、各種人工核酸と改変ポリメラーゼの相性について知見を得ることができた。また、各種人工核酸の反応の正確性についても評価した結果、いずれの人工核酸においても優れた正確性で反応を実行できることが示された。また、特定の低分子が人工核酸の伸長反応効率を向上させることを発見した。 本研究課題以前に開発してきた改変ポリメラーゼを用いたスクリーニングに加えて、新規改変ポリメラーゼの開発を実施することで、人工核酸アプタマーの開発に利用可能な人工核酸の種類を更に拡張することに成功した。
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