研究課題/領域番号 |
19K15703
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 貴裕 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (60734564)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生合成 / 結晶構造解析 / 酸化酵素 |
研究実績の概要 |
糸状菌由来novofumigatoninの生合成に関わる新規異性化酵素NvfEのホモログ酵素、NvfIの詳細なメカニズム解明、生化学的性質についての解析を行った。エンドペルオキシド構造を含む二次代謝産物の生合成については、糸状菌Aspergillus fumigatus由来verruculogenの生合成が明らかとされており、遺伝子群中の非ヘム鉄α-ケトグルタル酸(α-KG)要求性ジオキシゲナーゼ酵素FtmOX1がエンドペルオキシド形成反応を触媒することが報告されていた。近年、二つ目の例としてAspergillus novofumigatus由来のメロテルペノイド化合物novofumigatoninの生合成中において、非ヘム鉄α-KG要求性ジオキシゲナーゼ酵素NvfIがエンドペルオキシド構造の形成を行うことが明らかとされた。NvfIはasnovolin Aを基質とし、一回の触媒反応で3つの酸素原子を導入し、fumigatonoid Aを生産する。興味深いことに、NvfIは他のα-KG要求性ジオキシゲナーゼと相同性を示さず、系統樹解析においてはこれまでに解析されたα-KG要求性ジオキシゲナーゼとは異なる系統群に属することが見出された。本研究では、天然においても珍しいエンドペルオキシド構造を合成するα-KG依存性ジオキシゲナーゼNvfIに着目し、酵素の機能解析、立体構造解析を達成した。立体構造解析および変異体解析から、NvfIにおいてはFtmOx1とは異なる反応メカニズムにより、エンドペルオキシドが形成されると考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素を大腸菌に異種発現させ、精製した酵素に対してX線結晶構造解析を行った。その結果2.0 Åの分解能で全体構造の取得に成功した。NvfIの全体構造は、他のジオキシゲナーゼと類似したdouble-stranded β-helix (DSBH) core foldを有していたが、大きく異なる点として、DSBHを構成するβ-sheetが別の部位のβ-strandと相互作用し、新たなβ-barrel構造を形成していた。さらに、他のジオキシゲナーゼにおいては二量体化することで活性部位を形成しているのに対し、NvfIでは単量体で活性部位を形成していることが判明した。ゲル濾過カラム解析によっても実際にNvfIは溶液中において単量体で存在していることを確認している。基質asnovolin Aの酵素-基質複合体を取得し、アポ体と複合体の活性部位構造を比較した結果、複数のアミノ酸残基のコンフォメーション変化が見られ、基質結合によって活性部位残基の大きな動きが引き起こされることが示唆された。また、コンフォメーション変化が見られた活性部位残基および基質と相互作用している残基の変異体解析を行った結果、また、FtmOx1の酵素反応においてはTyr残基が酵素反応中エンドペルオキシドの形成後、ラジカル中間体への水素原子の付加反応を行い、触媒残基として重要な役割を担っていることが示唆されている。NvfIにおいてもTyr116が基質近傍に存在し、同様に重要な役割を担っていると考えられたが、Tyr116をPheに置換した変異体は野生型と同程度のエンドペルオキシド形成活性を維持していた。以上の結果より、Tyr116残基は、触媒残基としては機能しておらず、NvfIにおいてはFtmOx1とは異なる反応メカニズムにより、エンドペルオキシドが形成されると考察している。
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今後の研究の推進方策 |
継続しているNvfEの構造解析についても基質、基質アナログとの複合体構造の取得を引き続き試みる。特に、α-KG要求性を回復させる改変を試み、 エンドペルオキシドやその他基質類縁体に対して異性化反応のみならず、酸化反応を触媒できる機能改変酵素を作成する。 また、NvfEのホモログ酵素として他のメロテルペノイド生合成遺伝子群中にα-KG要求性ジオキシゲナーゼ酵素が存在しているため、それらの機能解析に着手する。同様に、結晶構造を取得し、活性に重要な残基の特定、機能改変を行う。 また、NvfEのホモログ酵素NvfIについて立体構造解析、変異体解析を完了させ、論文として報告する。
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