研究課題/領域番号 |
19K15707
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安田 智一 大阪大学, 理学研究科, 特任助教(常勤) (90771121)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | セラミド-1-リン酸 / 細胞質型ホスホリパーゼA2 / 蛍光寿命測定 / 動的挙動解析 / 分子認識機構 |
研究実績の概要 |
細胞膜上に局所的に分布するセラミド-1-リン酸(C1P)が、どのようにして細胞質型ホスホリパーゼA2(cPLA2)と特異的に相互作用するのか、その分子認識機構は未解明である。そこで、「C1P (ドメイン) の動的挙動や相互作用といった膜動態がcPLA2との相互作用に影響を及ぼす」という仮説を立て、C1P膜物性とC1P-cPLA2分子間の相互作用を観測し、その相関性を明らかにする。 本年度は、周辺の膜環境に応じてC1Pドメインの流動性や熱安定性がどのように変化するかを詳細に調べた。ホストとなる脂質の組成や水和状態を変化させた、C1P含有リポソームを調製し、蛍光寿命・蛍光偏光度測定に供した。蛍光寿命測定によって観測されるC1P含有率に対する寿命の変化から、各膜環境におけるC1Pのドメイン形成能を推定し、POPC膜中のC1Pと比較した。コレステロールを加えると膜流動性は低下したものの、ほぼ同程度のドメイン形成能を示したのに対し、不飽和度が高いリン脂質DOPC膜では形成能は上昇した。また、カルシウムイオンが存在すると、ドメイン形成能が上昇した。グリセロール骨格を持ち、類似構造のホスファチジン酸(PA)においても同様の傾向が見られたが、PAドメインの膜流動性は上昇した。これらは、リン酸基部位の電荷による静電相互作用と水素結合の寄与が異なるためだと考えられる。さらに、蛍光偏光度測定によって、温度上昇によるドメインの融解を測定した結果、ドメイン形成能がPOPC膜中のC1Pより増加した類縁体は熱安定性も高いことを示した。 以上の結果から、膜中に存在するC1Pドメインの膜動態は、周辺の脂質環境や水和環境に影響を受け、cPLA2との相互作用に寄与していると考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度からC1P-cPLA2分子間の相互作用に対して、C1P自体の構造だけではなく、C1Pドメインの動的挙動や物性も大きく寄与していると考え、それら膜動態に着目した解析を行うことにした。したがって、当初予定していた、C1P類縁体を用いた表面プラズモン共鳴 (SPR)などによるC1P-cPLA2間の相互作用解析にまで至らなかった。しかしながら、蛍光測定によってC1Pドメイン周辺の脂質環境や水和環境の違いによるC1Pドメインの膜動態や、類似脂質のホスファチジン酸との膜動態の違いを明らかにすることができた。これらの結果から、流動性や熱安定性など膜動態の異なるC1Pドメインを調製することが可能になった。次年度は、同様の手法で調製したC1Pドメインを含むリポソームに対して、SPRによるcPLA2との相互作用解析を行う。ドメインの膜動態と相互作用の相関を明らかにし、cPLA2分子認識に対するC1Pドメインの特性を推定できると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
DSC測定およびNMR測定によるC1Pドメインの膜動態解析:C1Pドメインの膜動態を多角的な分析手法で評価する。ホスファチジン酸との比較によって、頭部構造の電荷による膜動態の違いを見出し、C1Pドメインがカルシウムイオンによってドメインが大きくなる可能性が高いことを示す結果を得ており、これを検証する。 C1Pドメイン- cPLA2間の相互作用解析:cPLA2のC1Pドメインに対する親和性を定量的に求めるため、SPRを行う。膜動態の異なるC1Pドメインが存在する人工膜にcPLA2が結合すると、結合量に相当する質量変化が生じるので、それに対応するシグナル変化を定量的に解析する。まずはPOPC-C1Pモデル膜を用いて、分析手法の最適条件の確立を行う。条件がそろえば、他の脂質・水和環境におけるC1P含有人工膜に対しても分析手法を適用する。そして、本年度評価したドメインの膜動態情報と合わせて考察することで、cPLA2との相互作用への影響を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、予定していたタンパク質を用いた相互作用解析のために必要な試薬や消耗品の購入を予定していたが、実験実施は当該年度は行わず、その購入費が抑えられたため。また当該年度の前半、コロナウイルスの蔓延により、実験の実施が一時的に滞っていたため。 前年度の研究費も含め、研究を進めていく上で必要な試薬類や分析消耗品を購入し、当初予定通りの計画を実施していく。
|