研究課題/領域番号 |
19K15709
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松尾 和哉 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (90764952)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光制御型阻害剤 / 染色体 / モータータンパク質 / 細胞分裂 |
研究実績の概要 |
細胞分裂は、1つの細胞が2つ以上の娘細胞へ分かれる極めてダイナミックな生命現象である。細胞が分裂する際、遺伝情報の発現や伝達などの役割を担う「染色体」が複製され、一度赤道面に整列した後に、均等に分配され、細胞質分裂を介して娘細胞が生じる。この一連の動的な過程において、ATPをエネルギー源として「動く」タンパク質(モータータンパク質)が、様々に機能する。 本研究では、モータータンパク質が駆動する細胞分裂を、光で自在に操作し、細胞機能を改変する手法を開発する。2019年度は、特にCENP-E(Centromere protein E)に着目して、研究を進めた。CENP-Eは、複製された染色体を紡錘体極から赤道面へ紡錘体に沿って移動させ、配列させるモータータンパク質である。代表的なCENP-E阻害剤であるGSK923295の基本骨格に、可逆的な光応答性を示すアゾベンゼン誘導体(アリルアゾピラゾール)を導入したCENP-E阻害剤を設計・合成した。この光制御型CNEP-E阻害剤の基本的性質(紫外光や可視光に対する光応答性や可逆性、安定性など)を確認した後、CENP-E阻害能をin vitro(ATPase assay)および細胞レベル(cell viability assay)で検討した。その結果、紫外光(365 nm)照射時のcis体リッチな状態と、可視光(510 nm)照射時のtrans体リッチな状態で、10倍程度の阻害能の差が確認できた。さらに、得られた光制御型CENP-E阻害剤を利用し、分裂期染色体の移動を光で操作することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アゾベンゼン誘導体の可逆的な光異性化反応に基づく光制御型CENP-E阻害剤を開発した。これを利用して、分裂期細胞内の染色体の移動を光で操作することに成功した。これらの成果は原著論文として報告しただけでなく、光制御型CENP-E阻害剤が試薬会社より販売された。また、ミオシン阻害剤に対し、刺激応答性を付与する戦略も随時進めており、次年度は当初の計画通り、細胞分裂を精密に光操作する系を立ち上げ、検証を進める。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方針として、まず、光制御型CENP-E阻害剤を用いて、分裂期染色体を精密に光操作するシステムを構築するため、新しい光学系を立ち上げる。これを利用し、染色体を非対称に配置させたまま、強制的な細胞分裂を誘導することで、非対称な娘細胞を生成させる。また、CENP-Eだけでなく、細胞の動的なイベントを自在に光操作するために標的因子の拡張も行う。現在、細胞質分裂に関与するミオシンの阻害剤を検討しているが、これだけにとどまらず、本研究が示す戦略の拡張を積極的に行う。
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