研究課題/領域番号 |
19K15712
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
佐藤 浩平 静岡大学, 工学部, 助教 (30756705)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | タンパク質化学合成 / 薬剤耐性 / HIV-1プロテアーゼ / 難溶性ペプチド / 水溶性タグ / ペプチドヒドラジド / 化学選択的反応 |
研究実績の概要 |
複数の安定同位体標識アミノ酸を導入したタンパク質プローブ開発のモデルとして選択したHIV-1プロテアーゼの完全化学合成に挑戦した。当初予定した固相上でのライゲーション反応が許容できる反応効率で進行しないことが判明し、新たな合成経路でプロテアーゼ合成を実施するために、難溶性ペプチドの可溶化技術の開発に取り組んだ。 タンパク質化学合成時の合成中間体であるペプチド性化合物の水溶性は、中間体の精製効率や反応効率を決定づける重要なファクターである。合成標的タンパク質の一次配列によって、中間体ペプチドの水溶性が低いために取り扱いが困難となるケースがあり、ペプチドの水溶性向上による可溶化技術が求められている。特にペプチドの溶解性を事前に予測することは困難であるため、ペプチド合成後に水溶性タグを導入しペプチドの溶解性を向上する手法の開発が求められている。 HIV-1プロテアーゼのC端側セグメントの水溶性が低かったため、これまでに報告されている合成後期可溶化技術の適用を試みたが、水溶性タグ導入の足場となるアミノ酸を配列中に含まないために適用できなかった。そこで、ペプチドの共通構造であるC末端カルボキシル基に着目し、汎用性の高いペプチド可溶化法を開発した。すなわち、多数の水溶性官能基を有する化合物にホルミル基を導入した分子を水溶性タグとして用い、ペプチドC末端ヒドラジド上に還元的アルキル化により選択的に導入した。水溶性タグを導入したペプチドは高い水溶性を示し、難溶性ペプチドを水系溶媒に溶解することに成功した。タグ化ペプチドを用いてその後のペプチド連結反応を実施し全長のポリペプチドへと導いた後に、水溶液中硫酸銅(II)を作用させるとアルキルヒドラジドの酸化的加水分解が進行し、水溶性タグを選択的に除去できることが明らかとなった。本手法を用いてHIV-1プロテアーゼの完全化学合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペプチドヒドラジドとアルデヒドの化学選択的な反応を利用して、水溶性タグ導入法に適用可能な素反応の開発は2019年度に達成していた。2020年度は本反応を実際に水溶性タグ導入に適用し、HIV-1プロテアーゼの完全化学合成を達成した。本研究成果は今後の研究を進展させるうえで、不可欠な第一歩であり、これをもって研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までに開発したHIV-1プロテアーゼ合成法では、3つのペプチド鎖をワンポットで連結する際に副反応が問題となっていた。すなわち、中間セグメントにおいて分子内ラクタム形成反応が併発すること、N末側セグメントのチオエステル構造が不安定で分解することが問題となる。これら副反応は各ペプチド鎖の使用量増大を招くが、今後安定同位体標識アミノ酸を導入することを考慮すると、さらなる合成経路の改善が必須である。 分子内ラクタム形成は中間セグメントのC末端アミノ酸であるLysの側鎖アミノ基がチオエステル結合に対して反応することで進行していると考えられる。そこで、当該Lysの側鎖アミノ基を保護することを計画している。また、N末側セグメントのチオエステル分解には、中間セグメントのチアゾリジン環の開環反応に利用するメトキシアミンが関与することが明らかになっている。そこで、Lys側鎖および中間セグメントN末端CysをAlloc基で保護することで、二つの副反応を同時に抑制できると考えられる。 この第二世代合成法の検証を進め、ペプチド鎖使用量を削減した合成手法としての確立を目指す。HIV-プロテアーゼの合成が順調に進んだ場合は、同位体標識アミノ酸を導入したプロテアーゼ合成へと展開し、タンパク質主鎖と阻害剤間の水素結合検出システムの構築に挑戦する。
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