研究課題/領域番号 |
19K15713
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
友池 史明 学習院大学, 理学部, 助教 (70708586)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核酸プローブ / 遺伝子検出 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、特定のRNAを化学反応によって検出するプローブに膜透過性を付与することで生細胞内での遺伝子検出の実現を目指している。 プローブの核酸部分をホスホロチオエート骨格にして、膜透過性を付与した場合、目的遺伝子の検出能が安定しなかった。そこで、短い核酸と結合するヒストン様タンパク質に着目した。ヒストン様タンパク質と短いDNAを混合したところ、複合体が形成されるため、この現象を利用した膜透過を試みた。ヒストン様タンパク質単体では、膜透過能がないため、核酸の輸送がみられなかったが、ヒストン様タンパク質に膜透過ペプチドを導入したところ、細胞内への核酸輸送が示唆される結果が得られた。 また、生細胞内での検出を実現するため、免疫応答にも着目した。目的の遺伝子特異的な検出を実現するために、プローブは目的遺伝子の一部と相補的な配列を持つ核酸を有する。そのため、細胞内にプローブを導入した際、細胞内で外来の核酸を認識する免疫系に検知されて免疫応答が起こる可能性が考えられる。そこで、塩基部分にメチル基を導入し、細胞内に導入した際の免疫応答を計測した。その結果、メチル基の導入によって免疫応答が回避されることが示唆された。この成果について、2019年度は、Nucleoside, Nucleotide, Nucleic acids誌に報告した。 目的遺伝子の検出には、目的遺伝子との親和性、目的遺伝子およびプローブの濃度に依存する。そこで、高感度検出を目指し、共同研究により、液滴中に目的遺伝子とプローブを導入し、液滴の溶媒を除いていくことで、濃縮し、高感度検出を試みた。しかし、プローブと液滴外の溶媒との相互作用がみられ、濃縮が予想通りにいかず、目的遺伝子の高感度検出はできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
蛍光前駆体または還元剤を核酸鎖の末端につけることで、特定の遺伝子を特異的に検出することができるプローブとなる。この核酸鎖にホスホロチオエート骨格を導入することで膜透過性をプローブに付与し、生細胞内での検出を目指した。ホスホロチオエート骨格により、プローブの膜透過性が確認されたものの、細胞内の遺伝子検出能については、安定した結果が得られなかった。また、当初計画にあった膜透過性の化学分子の導入については、還元剤プローブにつけた反応する可能性が考えられた。 そこで、短い核酸と結合するヒストン様タンパク質に着目した。ヒストン様タンパク質はタンパク質単体で精製が可能であり、また、混合するだけ核酸と結合する。そこで、ヒストン様タンパク質を精製し、短い核酸と結合させ、細胞内への導入を試みた。用いたヒストン様タンパク質のみでは膜透過性は確認できなかったものの、膜透過性ペプチドを導入することで膜透過性が見られた。 また、細胞内にプローブを導入した後に生じると予想される免疫応答についても、その回避を検討した。具体的には核酸の塩基部分にメチル基を導入し、免疫応答を評価した。その結果、メチル基を導入することで免疫応答が軽減されることが示唆された。本成果については、2019年度に論文として発表した。 また、高感度検出を目指し、プローブの液滴内濃縮を共同研究で試みた。この方法では、液滴内にプローブと目的遺伝子をいれて、液滴の溶媒を除くことで濃縮を行った。しかし、プローブと溶媒の相互作用によって、濃縮・検出がうまくいかなかった。 以上のように前進があったものの、生細胞内へのイメージングにはまだ不十分であるため、やや遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度からは細胞内に核酸を導入する手法として、短いDNAと結合するタンパク質を利用する手法を検討する。一部のバクテリア由来のヒストン様タンパク質は、ホモオリゴマー状態で精製可能でかつDNAと酵素活性無しで結合することが知られている。そこで、このタンパク質に膜透過性ペプチドを融合させることで膜透過性を付与する。これとプローブとなるDNAを結合させ、細胞内への導入を試みる。 上述した通り、バクテリア由来のヒストン様タンパク質の精製条件およびペプチド融合の条件は確立している。そこで2020年度は膜透過ペプチドと融合したヒストン様タンパク質を利用した核酸輸送の条件を最適化する。また、アーキア由来のヒストン様タンパク質にも着目する。これらはバクテリア由来のヒストン様タンパク質と結合様式が異なるため、プローブとの親和性や輸送効率、輸送の際の免疫応答なども異なることが予想される。これらのタンパク質について、発現プラスミドを合成した後、大腸菌での発現・精製の条件を最適化する予定である。 また、膜透過性ペプチドの種類およびヒストン様タンパク質への導入箇所についても検討する。すでにバクテリア由来のヒストン様タンパク質を用いた実験において、導入する膜透過ペプチドの配列によっては、ヒストン様タンパク質と膜透過性ペプチドの融合体生成効率が著しく低くなることが確認されている。そのため、検討するヒストン様タンパク質と種類と膜透過ペプチドの導入位置、および膜透過ペプチドの配列の組み合わせについての最適化を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績概要等で記載したとおり、ホスホロチオエート骨格によって細胞内輸送を行った場合、検出が安定しなかった。そのため、ヒストン様タンパク質の利用を開始した。よって、プローブ合成を予定した予算、および学会発表用の予算を、次年度以降のタンパク質調製およびペプチド合成予算とするように使用計画を変更した。そのため、2019年度から一部、2020年度への使用額が生じた。
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