研究課題/領域番号 |
19K15718
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金 水縁 京都大学, 高等研究院, 客員研究員 (50758886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タンパク質分析 / 電気泳動 / 一細胞解析 |
研究実績の概要 |
今年度は、昨年度に開発した一細胞蛍光電気泳動法の最適化を行った。詳しくは、タンパク質に標識されていない未反応色素の効果的な除去法、タンパク質の分解を抑制するために実験条件の検討等により、バルク試料(1000細胞以上)の結果と対応する一細胞電気泳動プロファイルを再現性良く取得できるようになった。また、従来のゲルイメージャーより本手法ではより多くのタンパク質バンドを区別できることから(それぞれ25と63区画)、サブアトモーラーに至る感度の向上だけでなく、SDS-PAGEゲルの分析における分解能の向上も実現できることが分かった。 また、同手法を用いて外部刺激を与えた際の細胞ごとのプロテオーム変化と細胞間非均一性の変化を調べた。酸化ストレスの誘発剤である過酸化水素でIMR-90細胞を処理した後、4日目に一細胞試料を作製し、一分子蛍光電気泳動を行った。その結果、バルク試料より多くのタンパク質バンドが検出でき、さらに、試料間発現量のばらつきも顕著に見えた。また、過酸化水素で処理したIMR-90細胞の方がコントロール試料に比べて約2倍総タンパク質分子の数が多いことがわかった。その理由として、過酸化水素が細胞老化の誘発剤としてはたらき、細胞老化と関連する全体的なプロテオームの変化および細胞老化による細胞サイズの増加などの原因が考えられる。プレリミナリーな結果ではあるが、今後、多数の単一細胞に対しより高い分解能で解析を進めていくことにより、外部刺激に対する細胞反応の詳細と細胞間のばらつきを一分子レベルで解明できると期待する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一細胞電気泳動法が確立され、再現性良く一細胞解析ができるようになった。また、取得した一分子イメージングの画像データを半自動的に画像解析を行えるシステムを整えた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に確立した一細胞蛍光電気泳動では、全タンパク質分子を最大100区画まで分画できると見込んでいる。しかし、1つの哺乳類細胞の中には3万種類以上のタンパク質があり、その中でも様々な生命現象において重要な役割を果たす一部のタンパク質群はhouse-keepingタンパク質に比べて低コピーで発現されることが知られている。したがって、100区画ではプロテオームの詳細な変化を調べるのに不十分であると考えた。一方、二次元電気泳動法は、分子量と等電点といった二つの軸でタンパク質を分ける高分解能(>1,000個種類)の分析法であり、イオン化や抗体結合反応効率に起因するバイアスが無く、細胞内に存在する全てのタンパク質を調べることができる。 以上の経緯で、来年度は現在の一細胞蛍光電気泳動法により解析できる一細胞研究を推進しながら、一分子二次元電気泳動法を確立する。詳しくは、二次元電気泳動用の一細胞試料の作製、高速かつ自動的な二次元ゲルの撮影および画像解析パイプラインの作成などを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度まで実施を見送っていた一分子蛍光二次元電気泳動法の開発を次年度に行う。そのために必要な消耗品等(試薬類、光学部品、画像解析用パソコン等)を購入する予定である。
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