本研究では、ゲル電気泳動で分離した様々な種類のタンパク質を、単一分子蛍光顕微鏡により1分子感度で検出する「単一分子蛍光ゲル電気泳動法」を開発した。 本手法では、0.3 mmの厚みの試料まで高速にスキャンできる光シート顕微鏡を用い、電気泳動で分離されたタンパク質を単一分子蛍光イメージングにより検出する。つまり、各バンド内のタンパク質一分子からの輝点を数えることで、タンパク質の発現量を分子量ごとに絶対定量することができる。また、従来の蛍光撮影法より、検出感度を3桁以上向上したことを確認している(注:フェムトグラム程度)。その後、一細胞解析に向け、一細胞ハンドリング装置を用いて一細胞を収集し、電気泳動用の試料作成法を確立した。 今年度は、一細胞蛍光電気泳動法(以下、一細胞電気泳動)を利用し、本格的な一細胞プロテオーム解析を試みた。原理検証として、U2OS細胞とPC-3細胞を用いて一細胞電気泳動を行った。少なくとも30個以上のタンパク質バンドが識別できたことから、得られた泳動パターンは全タンパク質発現量のプロファイル、つまりプロテオームのデータとして使用できると考えられる。続いて、電気泳動プロファイルの次元削減解析を行った結果、U2OS細胞とPC3細胞が異なるグループに分類できた。 最後に、心筋細胞に分化したiPS細胞の一細胞分析を行った。心筋細胞への分化誘導を行っていない中胚葉と、誘導後13日目の心筋細胞の一細胞試料を作製し、一細胞電気泳動を行った。その結果、中胚葉と心筋細胞が異なるグループに分類できることを確認した。したがって、我々が開発した一細胞電気泳動は、高感度であり、細胞間の異なるプロテオームを分析する上で有用な手法であるといえる。
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