研究課題/領域番号 |
19K15722
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
横正 健剛 岡山大学, 資源植物科学研究所, 助教 (50790622)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルミニウム / イネ / 転写因子 / タンパク質相互作用 / シグナル認識 |
研究実績の概要 |
昨年度はイネのアルミニウム耐性に関与する転写因子ART1のタンパク質レベルでの制御機構を明らかにするために、酵母のツーハイブリットスクリーニングを行った。現在はART1と相互作用するタンパク質、OsBBPI3(Bowman-Birk Protease Inhibitor)の解析を進めている。イネの根で発現しているOsBBPI3のうち相同性の高いOsBBPI3.1, OsBBPI3.2, OsBBPI3.3を破壊した3重変異体は野生株に比べアルミニウムに対する根の相対伸長が阻害される。さらにOsFRDL4遺伝子などいくつかのART1制御下の遺伝子の発現量が野生株より低下していた。アルミニウム存在下で根の核におけるART1タンパク量を比較したところ、3重破壊株は野生株に比べART1タンパク量が減少していた。これらの結果からOsBBPI3の機能はARTのタンパク量質量維持に関与していると考えられる。また、OsBBPIの相同性の高い遺伝子はシロイヌナズナには見られないためこの遺伝子はイネに特異的な機能の可能性がある。 イネのアルミニウム感知に関わる分子機構を明らかにするために変異体のスクリーニングを行った。アルミニウムによって発現が誘導されるSTAR1のプロモーターにGFP遺伝子を導入した形質転換体(pSTAR1-STAR1GFP)にEMS変異処理を行い、アルミニウムを処理してもGFPの発現が増加しない変異体のスクリーニングを行った。これまでにM2世代を用いたスクリーニングを行った。その結果、GFPの発現量が低下している変異体候補4ライン見つけてる。得られた変異体候補の後代をもちいてアルミニウム耐性の比較を行ったが今回、顕著にアルミニウム耐性に変化のあるラインは無かった。現在、変異体候補株と親株や日本晴、カサラスと掛け合わせた材料を準備し原因遺伝子の特定に挑戦している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の実績報告書に記載したようにこれまでにART1と相互作用するタンパク質の解析を行ってきた。しかし、これまでの3重変異体、また過剰発現体の表現からして、この遺伝子がイネのアルミニウムシグナルの直接の感知機構に関与しているとは考えにくい。 アルミニウム感知に関する新規変異体のスクリーニングについては現在候補遺伝子の特定には至っていない。その原因についてはスクリーニングで得られる変異体の中には生育が著しく悪いものや不稔となる変異体が少なくない。 今後はまず、次世代の種子が十分にとれるものについて、MutaMapなどの手法を用いて遺伝子の特定を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
1.アルミニウム非感知性変異体のスクリーニング 今年度はこれまでに取得した変異体候補株について親株や日本晴、カサラスと掛け合わせた材料を準備しMutaMapなどの手法を用いて遺伝子の特定を試みる。 遺伝子が特定できた場合は、新たに破壊株を取得し、遺伝子発現と表現型の確認を行う。また、遺伝子発現やタンパク質の局在や分子生物学的、生化学的な解析を行い、候補遺伝子の持つ分子機能を明らかにする。 2.ART1と相互作用するタンパク質の機能解析 OsBBPI3.1、3.2、3.3はイネのアルミニウム耐性に関与する転写因子ART1とタンパク質レベルで相互作用する。これまでの研究からこのOsBBPI3の機能はART1タンパク質の分解阻害の可能性がある。一方最近の研究からシロイヌナズナのF-boxタイプのE3 ligase、RAE1が転写因子STOP1(STOP1はシロイヌナズナにおけるART1のオーソログ)の分解に関わることが報告された(Zhang et al., 2018)。イネではシロイヌナズナのRAE1と相同性の高い遺伝子が2つ(OsRAE1、OsRAE2)が存在する。すでにT-DNA挿入株を取得し、アルミニウム耐性などの解析を行ったがいずれの遺伝子の破壊株もアルミニウム耐性には大きな違いが無かった。今後は2重変異体の解析を行い、OsRAE1,2がART1のタンパク質の分解に関わるのか、さらにOsBBPI3.1, 3.2, 3.3がそのART1タンパク質の分解を阻害するのかを明らかにする。
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