研究課題/領域番号 |
19K15726
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
永久保 利紀 筑波大学, 生命環境系, 助教 (20826961)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膜小胞 / コリネ型細菌 |
研究実績の概要 |
当該年度においては、コリネ型細菌Corynebacterium glutamicumが形成・放出する膜小胞の応用可能性を検証するため、膜小胞の生物学的機能に関する種々の解析を行った。その結果、本菌が細胞外に放出する膜小胞が鉄キレート活性を有することが見出され、さらに膜小胞を介して鉄イオンが細胞外環境からC. glutamicum細胞内へと輸送されることを強く示唆する実験結果が得られた。前年度までに、数種のタンパク質が膜小胞に多量に蓄積することを見出していたが、これらのタンパク質を欠損した変異株に由来する膜小胞においても、上記と同様の鉄輸送機能があることが示唆された。以上のことから、本菌が放出する膜小胞は特定のタンパク質を細胞外に排出する輸送システムのプラットフォームとしての潜在能力を有するだけでなく、細胞外環境からの鉄獲得機構の一端としての生物学的機能をも有することが示唆された。C.glutamicumにおいては、細胞外環境から遊離鉄イオンを獲得する機構が存在しないことが過去30年近くにわたって提唱されてきたが、本研究の成果は、本研究課題の当初の目的とは異なるものの、その概念に一石を投じるものとなった。さらに、本菌から放出された膜小胞を精製する過程で、特定の脂質組成を有する膜小胞がより高い鉄輸送機能を発揮する可能性を示唆する結果が得られた。したがって、本菌における膜小胞の生物学的機能はその脂質組成に大きく左右されうると考えられる。微生物が生産する膜小胞には様々な生物学的機能が存在することが知られているが、その詳細なメカニズムはほとんど未解明であり、本研究を通じて膜小胞の機能に関する新たな知見が得られる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予期していなかった結果ではあるものの、当該年度においてはC.glutamicumが放出する膜小胞の生物学的機能の一端を解明することができた。これは、本研究課題の目的である「膜小胞を物質生産に応用するための基盤構築」に十分資する成果であると思われる。鉄は全ての生物が生育に必要とする必須元素であり、微生物は鉄を外部環境から獲得するための様々なメカニズムを有するが、申請者の知る限り、C.glutamicumにおいては鉄を細胞外から細胞内へと輸送する担体の存在は知られていない。したがって、鉄をキレートした膜小胞を培地に添加することで、本菌における鉄利用能を向上させ、有用物質生産プラットフォームとしてのさらなる潜在能力を発掘できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度においては、C.glutamicumが形成・放出する膜小胞の機能メカニズムについて、詳細な解析を進める。これまでの予備的な実験結果から、本菌に由来する膜小胞の機能はその脂質組成に依存することが示唆されている。そこで、遺伝子操作を通じて膜組成を変化させ、それが膜小胞の機能に与える影響を評価する。また、イメージング技術を駆使することで、膜小胞を介した鉄の輸送を様々な観点から解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中における東京大学から筑波大学への申請者の異動に伴い研究環境が大きく変化し、実験計画に変更が生じたため、次年度使用額が生じた。次年度においては、各種消耗品に対して次年度使用額を使用し、すみやかに研究環境を整備する予定である。
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