研究期間全体を通じて、Corynebacterium glutamicumにおける膜小胞の産生メカニズムを解明し、細胞外物質輸送における本菌の膜小胞の機能に関する知見を得ることができた。網羅的な生化学的解析とイメージング技術を組み合わせることで、C. glutamicumが多様な組成の膜小胞を異なる経路から作り分けることを明らかにした。さらに、外膜成分からなる膜小胞については、細胞外において鉄イオンを捕捉するキャリアーとして機能しうることも発見した。また、生理学的および物理化学的解析により、C. glutamicumが膜小胞から鉄を受け取って利用できることを示した。上記の研究成果により、外膜由来膜小胞が鉄欠乏条件下での本菌の生育を向上しうることが明らかになっただけでなく、栄養条件に深く関連する本菌の代謝経路を膜小胞で制御する新たな技術への可能性も拓かれた。 最終年度においては、外膜由来膜小胞を介した鉄輸送メカニズムの解明を目的とした実験を行った。具体的には、鉄を含む膜小胞の細胞表層への付着を検出する系を確立し、この検出系を用いてC. glutamicum外膜欠損株や他の微生物種と膜小胞の間の相互作用を調べた。その結果、膜小胞が上記全ての供試菌に対して付着した一方で、非ミコール酸含有細菌のグラム陽性菌(枯草菌)は膜小胞に付着した鉄を利用できないことが分かった。この結果は、(i)膜小胞の細胞表層への付着は外膜に依存しないこと、および(ii)膜小胞の積荷としての鉄を細胞内に取り込むプロセスに種特異性があることを強く示唆している。さらに、本研究成果を含む論文をMicrobiology Spectrum誌に投稿し、これが受理された。
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