糸状菌Aspergillus nidulansのセルラーゼ遺伝子の発現は特異的転写活性化因子ClrBと広域転写因子McmAによって制御されている。また、マンナナーゼ遺伝子の発現はClrBのパラログであるManSが関わり、部分的にClrBも関与する。本研究では複数の転写因子によるセルラーゼ・マンナナーゼ遺伝子の発現制御機構を解明することを目標に、これらの転写因子の活性化機構の解析や協調制御に関する解析を進めた。 ClrBの作用メカニズムの解明を目的として、GFP-ClrBの細胞内局在性を解析し、セロビオース依存的な核移行と不安定化を明らかにした。ClrBドメイン解析により、核移行シグナル、転写活性化に必要な領域、核移行制御に必要な領域を特定した。 McmAとClrBの相互作用を検出するため共免疫沈降法やYeast two hybrid法を試みたが、明確な相互作用を示す結果は得られなかった。しかしBiFC法によりClrBとMcmAを共発現する株において、核での蛍光が観察されたため、2つの転写因子の相互作用が示された。McmAと相互作用する新たな因子の探索を免疫沈降法により試み、その存在が見出された。 ManSの作用メカニズムを明らかにするため、mRFP-ManSを作出し細胞内局在を調べたところ、いずれの炭素源でも核に存在した。これよりManSの機能制御は核移行以外の方法によることが判明した。また、GFP-ClrBはマンノビオース存在下でも核移行したことから、ClrBによるマンナナーゼ遺伝子制御の妥当性が示され、またこの結果はManSと同時に働く可能性を強く支持するものとなった。DNA結合の観点からClrBとManSの協調制御を明らかにするため、EMSAを行った。ManSのマンナナーゼ遺伝子プロモーターへの結合配列を決定するとともに、両者が同時に結合する配列を見出した。
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