研究課題
前年度までに、乳児糞便中の腸内細菌叢と脂肪酸組成の分析を行ってきたが、その結果をさらに確実なものとするため、分析個体数を増やした。助産院で糞便と母乳のペアサンプルを回収した。脂質を抽出し、GC-MSにより脂肪酸(特にLA、OA、HYA、HYBについて)分析を行った。また、糞便サンプルからはゲノムDNAを抽出し、16S rDNAのNGSから腸内細菌叢解析を行った。その結果、ビフィズス菌数とHYA変換効率が正に相関する結果となり、これまで得られていた傾向をさらに裏付けた。乳児糞便腸内細菌叢解析について、Bifidobacteriumに分類されるOTU配列について、改めてBLAST検索を行うと、複数種のビフィズス菌が同定された。検出された種についてゲノム配列情報が明らかとなっている複数の株について、脂肪酸変換酵素をコードする遺伝子を検索すると、大部分の株が該当遺伝子を保有していた。また、分譲機関より入手可能な株を用い、実際に菌レベルで脂肪酸変換能を検討したところ、菌株により変換能は大きく異なることが分かったが、乳児腸管内で多い種に関しては変換能が高い傾向が見られた。乳児腸管内で豊富なB. longumとB. breveについては、経時的な変換についても検討した。反応は、ある一定の変換効率(脂肪酸組成の比)に収束する傾向があった。これは、糞便中においても変換が完全に起こらずにLAが残存した状態であることと一致する。さらに、ゲノム編集が可能なB. longum株を用い、変換酵素遺伝子を欠損させると、HYAの産生が見られなくなったことこら、本遺伝子が確かに変換を担う酵素をコードすることが確かめられた。
2: おおむね順調に進展している
実際の生体由来サンプルを扱う場合、個体差の影響を極力除くためにも、いかに多くのn数を分析するかが重要な点であるため、それを第一課題と位置付けており、本年度は優先的にその解決に取り組んだ。これまでと同様の方法で、母親の母乳と乳児糞便サンプルを再度追加で回収を行い、糞便中脂肪酸分析とNGSによる菌叢解析を実施した。n数を大幅に追加したことで、これまでの結果から得られた傾向について、より確実に確かめることができた。また、生体サンプルにおけるIn vivoの検討から得られた傾向を、分子レベルのメカニズムから説明するために、In vitroに落とし込んで議論することが次の課題となった。どこで、実験室で実験可能な菌株レベルの検討においても、複数のビフィズス菌種を用いた検討、反応進行(時間)の検討、遺伝子欠損株を用いた検討を重ねた。得られた結果はいずれも、生体サンプルでみられた傾向と予測と一致するもの、あるいはより深い議論と説明を可能とするものであった。ここまでの検証により、In vivoとIn vitro両面で、ビフィズス菌による母乳中脂質の変換の基礎となる基盤メカニズムの解明が概ね完了したと考えている。また、実際の生体で起こっている現象を、In vitroレベルから検証し、確実に裏付けたことは、一連の研究スキームとしても意義があるものである。
前年度までの研究により、生体サンプルにおける検討はn数を増やしたことでより確実なものとすること、In vitroの菌レベルでの実験により基礎となるメカニズムを確かめることが達成された。今後は、その基礎メカニズムから、応用を見据えた、すなわちより効率よく有用な脂肪酸の変換を行う方法論、という視点に基づくさらなる検討へと展開が可能である。前年度に検討したビフィズス菌株は、いずれも変換酵素の遺伝子を保有しており、その配列とくに基質ポケット部位の重要残基は概ね一致していた。にも関わらず、実際の変換効率はことなっており、乳児型ビフィズス菌で高い傾向が見られた。その違いを生じさせる要因としては、以下の2つを想定しており、そのそれぞれを検討する。ひとつめは、脂肪酸(脂質)に対する耐性である。一定濃度以上の脂肪酸(脂質)は、菌に対して毒性を発揮するが、それに対する耐性が変換効率に影響を及ぼす可能性があるため、脂肪酸添加培地を用いた培養とそのごの生存率を検討する。株による違いが見られ場合は、その要因についても、例えば細胞外多糖の分泌などから注目する。ふたつめは、該当遺伝子発現制御である。予備検討では、脂肪酸含有培地で培養することで、発現が上がる傾向が見られているが、その詳細な条件について検討を行う。これらのようそがそれぞれ明らかになることで、有用な脂肪酸変換を目的とし、より適したビフィズス菌種の選択や、該当遺伝子を効率よく発現する方法などを議論することが可能となる。
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