研究課題/領域番号 |
19K15733
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小川 拓哉 京都大学, 化学研究所, 助教 (40756318)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ω-3系高度不飽和脂肪酸 / エイコサペンタエン酸 / ドコサヘキサエン酸 / Shewanella / 極限環境微生物 / 微生物変換 / β酸化 |
研究実績の概要 |
エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)はω-3系高度不飽和脂肪酸の一種であり、人の健康維持・増進に有益な脂肪酸である。この十数年でEPA/DHAの微生物生産を目指した研究が精力的に行われてきたが、EPA/DHAの代謝経路の全容や調節機構はいまだに明らかではない。本研究では、EPA生産菌Shewanella livingstonensis Ac10を対象に、EPA/DHA代謝に関連する2つの研究テーマに取り組んだ。 1つ目に、本菌はEPAをde novo生産するだけでなく、細胞外のDHAを取り込みEPAに変換する未知代謝経路を有しており、この変換機構の解析に取り組んだ。本変換がβ酸化、あるいは類似の代謝反応で進むという仮定のもと、β酸化酵素の1つである2,4-ジエノイル-CoA還元酵素(DECR)について変異解析を行なった。その結果、本菌の6つのDECR遺伝子のうちsl_1351遺伝子の変異株においてDHAからEPAへの変換が著しく低下した。さらに、Sl_1351タンパク質の組換え酵素にDECR活性が認められた。したがって、DHAは一般的なβ酸化反応によってEPAに変換されることが強く示唆された。これらの成果について5件の学会発表を行い、また、論文を作成・投稿し、現在は査読中にある。さらに現在は、本変換経路における他のβ酸化酵素の役割についても同様に解析を進めている。 2つ目に、EPA/DHA生産菌にあって非生産菌にはない(すなわち、EPA/DHA生産菌に特有な)機能未知遺伝子についてEPA/DHA代謝との関連を検討した。各遺伝子の変異株を作製し諸性質を解析したところ、EPAの生産量の増加が認められた。このことは、これらの遺伝子がEPA/DHAの代謝を調節する働きを有することを示唆しており、また、EPA/DHAの微生物生産を考える上で有益な知見だと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた通り、令和元年度に遺伝子破壊と、変異株の脂質組成を含む諸性質の解析が進めることができ、DHAからEPAへの変換機構の一端が明らかになったこと、および、EPA/DHA生産菌に特有な機能未知遺伝子にEPA/DHA代謝との関連が見出されたことが理由として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
DHAからEPAへの変換機構の解析については、DECRの関与が明らかになり、本変換がβ酸化経路を介することが強く示唆されたが、他のβ酸化酵素の関与や、どのような代謝制御でβ酸化によってEPAを選択的に生産するのかといった点は未解明である。これらについて、他のβ酸化酵素の遺伝子破壊や組換えタンパク質の機能を調べることで解析を進めたい。EPA/DHA生産菌に特有な機能未知遺伝子の解析については、変異株におけるEPA生産性増大の原因を調べるため、RT-PCRを用いたEPA生合成遺伝子の発現量解析を行う。また、当該遺伝子のEPA/DHA代謝における具体的な役割を追究するため、プロテオーム解析やRNA-Seqを用いた網羅的なタンパク質・遺伝子発現の比較解析を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
DHAからEPAへの変換を担う酵素DECRの精製とin vitroアッセイに大きく予算を組んでいたが、目的の酵素活性を持った組換えタンパク質の取得が問題なく進んだため、代替案として想定していたS. livingstonensis Ac10菌体からの直接精製が不要になったこと、また論文投稿を優先して同酵素の詳細な酵素学的特性の解析を行わなかったこと等で当該次年度使用額が生じた。これによって高額なオミクス解析が可能になったため、令和二年度にはEPA/DHA生産菌に特有な機能未知遺伝子の機能解析にRNA-Seq解析 (490千円/8検体) 等を用いることを考えている。
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