研究実績の概要 |
本年度は, (i) 昨年度構築に成功したフェニルアラニン生産株のフェニルアラニン高生産に向けた更なる改変, (ii) アセチルCoA誘導体生産宿主の構築のための遺伝子工学, に取り組んだ。(i) に関して, フェニルアラニンへの炭素流量向上を狙い, 昨年度構築したフェニルアラニン生産株 (Phe生産株I: ATCC 13032 ΔhdpA ΔqsuB ΔqsuD Ptuf-aroE-pCNKS-pheAT326P(EC)-aroH(EC)) からチロシン生合成経路の欠損を試みた。具体的には, Phe生産株Iからプレフェン酸脱水素酵素をコードする遺伝子NCgl0223の欠損を行なった。その結果, 欠損株が得られたものの, グルコース及びチロシンを含む複合寒天培地上に大小様々な大きさのコロニーが出現した。これは, 抑制変異株の出現を示唆していると考え, 中でも同寒天培地上で良好に生育可能な株を3株単離し, フェニルアラニン生産を評価した。その結果, 3株中2株が親株と比較して大幅にフェニルアラニン生産が向上していた。(ii) に関して, コリネ型細菌においてアセチルCoAプールを増加させる戦略の一つとして, クエン酸合成酵素を標的とした遺伝子工学を行なった。具体的には, 先の研究でクエン酸合成酵素の活性が野生株の約1%に低下することが明らかになっているアミノ酸置換変異 (S252C) を野生株に導入した変異株を作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的の一つであるα-ケトグルタル酸を蓄積するコリネ型細菌の造成及びその合成生物学的利用に関しては, これまでに概ね検討ができている。一方で, アセチルCoA関連においては,今年度クエン酸合成酵素活性低下株を構築できたことから, 今後検討を進めていけると考えられる。また, 研究当初の予定には含まれていなかったフェニルアラニン生産株の構築に関して, いくつか有益な知見を得ることができている。これらを総合して, 上記のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度作製に成功したクエン酸合成酵素活性低下変異株を基盤に, アセチルCoA誘導体の生産を試みる。特に, 3-ヒドロキシ酪酸を最初の標的にして研究を進める。3-ヒドロキシ酪酸の生成が確認され次第, 毒性物質である1-ブタノールの生産に挑戦する。これらの研究と並行して, 高生産を目指したフェニルアラニン生産株の更なる改変, 抑制変異株に落ちている変異箇所を同定することによる, チロシン合成阻害に抗う機構の考察を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度と同様の理由に加え, 学会等がオンラインで行われたため, 出張費の出費が予定よりも低かったことが考えられる。有効活用の方法としては, 各生産物の生産性向上に向けたメタボローム解析, トランスクリプトーム解析への費用が挙げられる。
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