研究課題
本年度は、主に広感染域ファージの探索並びにCRISPR/Cas13搭載ファージの試作を行った。まず、広感染域ファージの探索について、地下水及びT系ファージを用いて、研究室の所有する臨床分離の大腸菌ライブラリーに対する感染試験を行った。その結果、意外なことにT6ファージの宿主感染域が非常に広く、297株262株に対し溶菌活性が確認された。従って、T6ファージが大腸菌に対する標的狙撃型殺菌キメラファージの合成に適していることが明らかとなった。しかしながら、ゲノムサイズが約160kbと比較的大型のファージである為、今後人工ゲノム合成技術を改良していく必要がある。酵母を用いたゲノムの人工合成については本年度は宿主株の改良を行った。酵母においては一般的に相同組換え効率が非常に高いが、今回の目指している大型ゲノム合成にあたっては、わずかに存在する非相同組換え活性が合成を阻害することが予想された。その為、酵母の非相同組換えに関与するDNL4の破壊株を入手し、T7ファージの合成を行った。その結果、合成したゲノムは、ほぼ100%リブートが可能であった。したがって、この酵母菌株をもちいて今後より効率的にゲノムの人工合成が可能である。CRISPR/Cas13搭載ファージの試作について、本年度はすでに合成に成功しているT7ファージをモデルに着手した。しかしながら、一度合成に成功したCRISPR/Cas13搭載T7ファージからCRISPR/Cas13が脱落する現象が見られた。現在理由は不明の為、今後明らかにする必要がある。以上のように本年度は、広感染域ファージの取得並び人工ゲノム合成系の改良を達成した。またCRISPR/Cas13搭載ファージも合成には成功したものの今後脱落抑止をするため改良が必要であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、昔から知られているT系ファージの一つT6ファージが非常に広い宿主域を持つことを明らかとした。また、T6ファージについてはリシーケンスを行い、人工合成に向けての準備を万全にした。加えてCRISPR/Cas13搭載T7ファージを試作することで、合成における問題点のあぶり出しも完了した。人工合成法の改良も順調に進捗しており、次年度の大型ファージの合成、CRISPR/Cas13搭載ファージ合成の達成が十分に期待される。
本年度得られた結果から、T6ファージの合成法及びCRISPR/Cas13をファージに安定的に保持するような改良が必要と考えられる。したがって、まず改良を行うための軸となるファージゲノム人工合成をより効率的に行うため、酵母を用いたゲノム人工合成技術の改良を実施する。改良と並行して、大型ファージの合成、さらにCRISPR/Cas13搭載ファージの合成を実施する。
本年度は、申請者に機関異動が生じるとともに、新型コロナウィルスの影響で当初予定していた出張の一部がキャンセルになったため変更が生じた。繰り越して使う研究費は主に旅費として使用することを計画している。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Frontiers in Microbiology
巻: 10 ページ: Article 2838
10.3389/fmicb.2019.02838