本年度は、前年度のスクリーニングにより大腸菌に対する宿主感染域が非常に広いことが明らかとなったT6ファージについて、酵母を用いたゲノム人工合成に取り組んだ。T6ファージは前年度のプレリミナリーな実験から、比較的小型のゲノム(40kb)のT7と同様の方法では合成が難しいことが明らかとなっていた。そこで、いくつか文献を調査し、大型ウィルス(ゲノムサイズ150kb以上)の人工合成で成功例の報告がある、YACとBACを組み合わせたシステムを適用し、人工合成に取り組んだ。しかしながら、本年度中に合成を達成することができなかった。 本研究は、全期間を通し酵母を用いたゲノム人工合成技術の向上、大腸菌に対する宿主域の広いファージのスクリーニング、ファージへのCRISPR/Cas13の搭載、そしてこれらを組み合わせたマウスを用いたファージセラピーの試みを目的としていた。このうち、ファージへのCRISPR/Cas13の搭載、大腸菌に対する宿主域の広いファージのスクリーニングを完了した。また酵母を用いたゲノム人工合成技術についても、T6ファージの合成には至らなかったが、従来よりも合成効率を向上させることに成功した。したがって、すべての項目の達成に至らなかったが、将来の標的狙撃型人工合成ファージによるファージセラピー達成に向け前進するような成果を残すことができた。 引き続き本研究課題を継続することで、T6ファージの合成、そしてT6ファージへのCRISPR/Cas13の搭載を達成し、抗生物質にたよらないファージセラピーによる細菌感染症の克服に資する成果を達成可能と考えている。
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